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観仏日々帖

新刊旧刊案内~「国宝ロストワールド」岡塚章子・金子隆一・説田晃大著 【2020.02.15】


こんな本が出版されました。


「国宝ロストワールド~写真家たちがとらえた文化財の記録」 

岡塚章子・金子隆一・説田晃大著 2019年10月 小学館刊 【112P】 1600円

国宝ロストワールド


「国宝ロストワールド」という書名を見たとき、どんな内容の本だろうと、一瞬戸惑いました。
副題に「写真家たちがとらえた文化財の記録」というリードがつけられてるのを見て、これは私の関心ある世界の本だと、すぐにわかりました。

早速、購入。
頁をパラパラとめくってみました。



【「近代文化財古写真、仏像写真の文化史」を概観できる興味深い本】


私にはなじみの古写真、仏像写真家の有名写真が、沢山目に飛び込んできました。

表紙は、工藤精華の手先が欠損している興福寺阿修羅像の明治修理前の写真です。

工藤精華撮影・明治修理前の阿修羅像写真の表紙
工藤精華撮影・明治修理前の阿修羅像写真の表紙

横山松三郎の壬申検査時の写真(明治4年)、小川一眞の近畿地方古社寺宝物調査の写真(明治21年)といった古写真や、飛鳥園・小川晴暘、土門拳、入江泰吉の仏像写真などなどが収録されています。

横山松三郎撮影、壬申検査時(明治4年)の東大寺大仏写真
横山松三郎撮影、壬申検査時(明治4年)の東大寺大仏写真の掲載ページ

小川一眞撮影、近畿地方古社寺宝物調査(明治21年)の興福寺北円堂・無著像写真
小川一眞撮影、近畿地方古社寺宝物調査(明治21年)の興福寺北円堂・無著像写真の掲載ページ


本の内容を一言でいうと、

「明治大正期の文化財古写真の歴史と意義を振り返る」
「昭和以降の著名仏像写真家たちの表現意図、魅力をたどる」

と云えるのではないでしょうか。

「近代文化財、仏像写真の文化史概観」の本といってもよいと思います。

本書の「はじめに」には、このように記されています。

「本書では、明治、大正、昭和に撮影された数ある国宝の中から、写真史を語るうえでとくに意義ある写真を選び紹介している。

その写された国宝の中には、すでに失われてしまったものや形が変わっているものもある。
撮影された写真には、どれも言葉では伝えることができない数多くの情報が詰まっている。
そして注意深く見ると、そこには撮影者の何らかの意図も写し出されていることがわかる。

写真家たちが向き合い撮影した、これらの写真を通して、国宝の新たな魅力を発見し、その数奇な運命の物語を知っていただければと思う。」
(岡塚章子氏執筆)



【33枚の古写真・著名な仏像写真を、コンパクト解説】


全部で、33枚の古写真、著名写真家の文化財・仏像写真が収録され、一枚ごとに、その写真の文化史的な意義や、写真表現の意図、魅力などのコンパクトな解説がなされています。

私のような、文化財古写真や昭和の仏像写真作家たちに興味、関心の深いものについては、なかなかに、たまらない内容の本です。

昨年10月末に刊行された本で、もっと早くご紹介しようと思っていたのですが、「今年の観仏を振り返って」の連載掲載で、手間がかかってしまって、ちょっと遅まきのご紹介になってしまいました。



【本の目次をご紹介】


本書の目次をご覧ください。

国宝ロストワールド目次(1)

国宝ロストワールド目次(2)

国宝ロストワールド目次(3)


目次をご覧いただくと、この「国宝ロストワールド」という本が、どのようなテーマ、内容の本か、おわかりいただけたらと思います。


大変マニアックなテーマの本で、率直に云うと、今時、こんな新刊書をわざわざ書き下ろして出版されることがあるのかと思って、ちょっと調べてみたら、「週刊ニッポンの国宝100」という分冊雑誌の巻末に連載掲載となっていた「写された国宝」と題するコラムのようなものを抜粋、増補して一冊の単行本に仕立てたという本だということです。
「週刊ニッポンの国宝100」は2017年9月~2018年9月にかけて小学館から全53冊で刊行されたのですが、私は中身を見たこともなく、こんな連載コラムがあったのも知りませんでした。


お読みいただくと、我国にもたらされた写真という新技術をもって、文化財がどのように記録されてきたのか、そして記録としての文化財写真から、仏像の美や魅力を表現する芸術写真へと展開していく様相が、大変よくわかります。
そうした中で、写真家たちが、どのような苦労と創意のもとに仏像を撮影してきたのかを、時代を追ってたどることができます。

「近代文化財写真史」という膨大な話のエッセンスを、100ページ余にコンパクトにまとめられた貴重な本といえると思います。

なかでも、収録された二つの解説文

「文化財撮影の歴史を切り拓いた三人の写真師の物語」(岡塚章子執筆)
「国宝と闘った写真家たち」(金子隆一執筆)

は、大変興味深く、これを読むと近代文化財写真史を判りやすく知ることができます。



【見事に凝縮された一行コメント~一言で言いつくされる絶妙フレーズ】


本の個別の内容や解説について、いちいちご紹介しているとキリがありませんので、やめておきますが、 「各項目のインデックスに添えられたリード文」 が、それぞれの古写真、写真家について一言に凝縮した、なかなか絶妙なタイトルになっています。

少しだけご紹介しておきたいと思います。

「法隆寺 夢殿」 横山松三郎 (明治5年・1872)
~史上初の写真での公式文化財記録~


「興福寺 無著菩薩立像」 小川一眞 (明治21~2年・1888~9)
~仏像の持つ精神性を捉えた歴史的名作~


「興福寺 阿修羅像」 工藤利三郎 (明治35年・1902以前)
~阿修羅修理前を知ることができる貴重な一枚~


「中宮寺 菩薩半跏像」 小川晴暘 (大正13年・1924頃)
~仏像写真に芸術性を持ち込んだ画期的な写真~

「国宝ロストワールド」小川晴暘撮影 中宮寺・菩薩半跏像掲載ページ
「国宝ロストワールド」小川晴暘撮影 中宮寺・菩薩半跏像掲載ページ


「法隆寺五重塔北面侍者像」 坂本万七 (昭和25~34年・1950~9頃)
~自然な照明で格調高い美しさを表現~

「国宝ロストワールド」坂本万七撮影 法隆寺五重塔北面侍者像掲載ページ
「国宝ロストワールド」坂本万七撮影 法隆寺五重塔北面侍者像掲載ページ


「室生寺弥勒堂釈迦如来坐像衣文」 土門拳 (昭和18年・1943頃)
~気に入った部分を切り取る“土門美学”の真骨頂~

「神護寺薬師如来像」 土門拳 (昭和40年・1965)
~土門拳が一番愛した仏像、その精神を写す~

「国宝ロストワールド」土門拳撮影 神護寺薬師・室生寺釈迦像掲載ページ
「国宝ロストワールド」土門拳撮影 神護寺薬師・室生寺釈迦像掲載ページ


「西ノ京の秋」 入江泰吉 (昭和33年・1958)
~国宝を大和路の麗しい風景の一部として捉える~


それぞれのリード文の「絶妙フレーズ」には、感心してしまいました。

近代文化財、仏像写真の歴史や魅力にちょっとご関心のある方には、一読必携の一書として、是非お薦めです。



【本書テーマに関連のHP記事、ご参考情報のご紹介】


近代文化財写真の歴史や、仏像写真作家については、日々是古仏愛好HP「埃まみれの書棚から」のシリーズで、ご紹介したことがあります。

「奈良の仏像写真家たちと、その先駆者(その1~10)」
「古佛に魅入られた写真作家達の本~その足跡や生涯~(その1~3)」

ご参考に、ご覧いただければと思います。


ついでに、こんな参考情報も・・・・

本書で採り上げられた明治の写真師、横山松三郎、小川一眞、工藤利三郎の撮影古写真は、次のサイトで見ることができます。

東京国立博物館研究情報アーカイブス  古写真データベース  撮影者別データベース

全部で一万件ほどの膨大な写真資料を、いつでもNETで閲覧することができます
ほとんど知られていないのではと思うのですが、凄い文化財古写真のデータベースです。

古写真データベース収録 横山松三郎撮影 法隆寺金堂・百済観音(明治4年)
古写真データベース収録 横山松三郎撮影 法隆寺金堂・百済観音(明治4年)

古写真データベース収録 小川一眞撮影 興福寺旧金堂に集められた諸仏写真(明治21年)
古写真データベース収録 小川一眞撮影 興福寺旧金堂に集められた諸仏写真(明治21年)

工藤精華撮影 興福寺・十大弟子(明治期)
古写真データベース収録 工藤精華撮影 興福寺・十大弟子(明治期)


このテーマにもう一段ご興味があり、深く知りたいと思われる方には、次の本がおすすめです。

「写された国宝~日本における文化財写真の系譜」岡塚章子編著 
2000年11月 東京都写真美術館刊 【173P】


「写された国宝」

「写された国宝」目次
「写された国宝」  目次



本書は、同名の展覧会図録として発刊されたものですが、大変充実した内容になっています。

新刊の「国宝ロストワールド」の底本的な本だと思います。


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