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観仏日々帖

古仏探訪~8/9開帳、三重3ヶ寺の秘仏を訪ねて(常福寺、林光寺、勧学寺) その1:常福寺・千手観音像 【2019.8.17】


【8/9に、年に一度だけご開帳の、三重の3ヶ寺の秘仏】

8月9日にご開帳されるという、三重県内の秘仏ご開帳に出かけてきました。

同好の方数人と巡りましたが、「熱中症から身を守ってください!」という言葉が、まさに実感の炎暑、酷暑のなかでの観仏探訪となりました。


訪ねた秘仏は、ご覧の3ヶ寺で、いずれも8/9にご開帳される千手観音像です。

津市白山町の「常福寺」の秘仏・千手観音立像

鈴鹿市の「林光寺」の秘仏・千手観音立像

桑名市の「勧学寺」の秘仏・千手観音立像(8/9・10両日ご開帳)


あまり知られていない仏像ばかりだと思いますが、ご紹介していきたいと思います。


【平安前期の優作、常福寺・千手観音像のご開帳】

まずは、津市白山町にある常福寺の秘仏、千手観音像です。

常福寺・千手観音像
常福寺・千手観音像(平安前期・重文)
「三重の美術風土を探る展」図録(1986年)掲載写真


これだけの優作が、あまり知られていないのが不思議に思います。

像高60㎝弱の小像なのですが、圧倒的な迫力、存在感を感じさせる、平安前期の優作像です。
もうちょっと、仏教美術史の本などで紹介されてもよいのではないかと思っています。
9年前、2010年に一度訪れたことがあるのですが、その素晴らしい造形に見惚れたことが忘れられず、また再訪したのでした。

常福寺は、津の駅から西に約30キロ、車で小一時間の、白山町八対野という処にあります。
地元では「別所の観音堂」と呼ばれていて、昭和になってからの建築ながら本堂、観音堂などがあるのですが、現在では、地区の管理として守られています。


【今年は、60年に一度の「特別ご開帳」~9年ぶりの再訪】

常福寺の千手観音像は、毎年8月9日の一日に限って、ご開帳となります。

今年のご開帳は、60年に一度の「特別御開帳」の年にあたるということです。
前回訪ねさせていただいたご縁で、地区の管理の方から「特別御開帳」のご連絡を同行の方に頂戴し、それではと、再訪させていただくことになったわけです。

常福寺・本堂
常福寺・本堂

常福寺・観音堂
常福寺・観音堂

本堂には、地区の方々が、60年ぶりの特別開帳の行事に大勢寄り合っておられました。

千手観音像は、本堂奥の小高い処にある収蔵庫に安置されています。

常福寺・千手観音像安置収蔵庫
千手観音像が祀られる常福寺・収蔵庫

地元の方の他には、特別開帳に訪れられている方もさほど多くはなく、じっくりと拝させていただくことができました。

常福寺・千手観音像
御開帳された収蔵庫に祀られる千手観音像


【小像なのに、雄大なスケール感と迫力で霊威感を発散】

一目で、堂々たる存在感を感じます。
こんなに小さな像なのに、雄大なスケールの大きさ、力強さに充ち満ちているのです。

常福寺・千手観音像
常福寺・千手観音像(平安前期・重文)
「はくさんの仏像~白山町仏像調査報告書」2003年刊掲載写真


アップの写真で見ると、等身ぐらいはある大きな像ではないかと見まがうほどです。
上半身の力強い肉付け、下半身のダイナミックな翻波式衣文は惹き付けるものがあります。
誰がみても、平安前期の優作であることは間違いありません。

像高:55.6㎝、ヒノキ材の一木彫で、内刳りなどは一切なく、漆箔仕上げ。
千手を表す42手は別材製ですが、ほとんどが当初のものです。
美術院の新納忠之介、明珍恒夫等の古社寺調査によって、大正5年(1916)、(旧)国宝に指定され、戦後文化財保護法改正により、重要文化財に指定されています。

この千手観音像を拝して、強く惹きつけられるのは、全体のシルエットです。
むっちり太造りの合掌手、脇手は、空間に大きく広く円弧を描き、その漲る強い力が上半身に求心、統一されていくようです。
小さめの頭部と体躯のバランスもなかなか絶妙で、千手を広げた全体のシルエットに、力強く雄大なスケール感を醸し出しています。
そして、ちょっと怪奇な霊威感を発散させています。


【いわゆる平安前期の小像檀像とは、ちょっと違うタイプの千手観音像】

この千手観音像は、平安初期、9世紀の制作とみられる像ですが、この時期の小像の多くの作例のタイプとは、ちょっと違うようです。

9世紀の50~60㎝の小像は、いわゆる檀像風、カヤ材の素木、木地仕上げの像が大変多いのですが、この像は漆箔仕上げでヒノキ材ということです。
また、多くの檀像風像は、総じて、厳しく鎬立った衣文など、鋭くシャープな彫り口を強調した表現で、頭部が大きい子供のようなプロポーションの像となっています。

醍醐寺・虚空蔵菩薩像海住山寺・十一面観音像
9世紀の50~60㎝の小像の檀像風菩薩像
(左)醍醐寺・虚空蔵菩薩像、(右)海住山寺・十一面観音像


これに対して、常福寺像は、鋭さ厳しさよりも、むっちりした肉身の弾力的張りを強調した表現で、プロポーションも頭部が小さめで大人風です。

いわゆる平安初期檀像の系譜とはちょっと違う系譜の像なのかもしれません。

「三重県史・別編~美術工芸」の本像の解説には、このように述べられています。

「像高60㎝足らずの小像ながら、非常に迫力ある造形を示し、いかにも平安初期彫刻らしい力強さに満ちている。
・・・・・
詳しい制作年代は不明であるが、造形的な特徴からみて9世紀と考えられる。

千手観音には、唐招提寺像や、大阪府葛井寺像(両像とも奈良時代の作)のように、文字通り千手をあらわす形式と、本像のように42手をあらわす形式とがある。
42手形式の遺品には、平安中期から後期にかけての像は多いが、本像のように平安前期に遡る像は少なく、奈良時代の雑密系彫刻の系譜に連なる古様な表現になる作品として、本像は重要な像である。」
(「三重県史・別編~美術工芸」三重県編2014.3刊~毛利伊知郎氏解説)


【大注目は、霊気漂う「風動表現」~法華寺・十一面観音像と同タイプ】

もう一つ、この千手観音像の大注目は、いわゆる「風動表現」です。
「風動表現」とは、仏像の着衣などが、前方からの風に吹かれて翻っているようにたなびき、神秘的な空気感に包まれている表現のことをいいます。

この「風動表現」の作例として、最も有名な像は、法華寺・十一面観音像です。

法華寺・十一面観音像
法華寺・十一面観音像(平安前期・国宝)

法華寺像は、膝下の着衣の裾が大きく後ろにたなびくほか、両側の天衣は翻転、曲折し、垂髪までもが前からの風を受けています。

風動表現の法華寺・十一面観音像の衣
衣が後方にたなびき翻る「風動表現」の法華寺・十一面観音像

霊風を受けるという「霊威表現」であることは、明らかです。
この「風動表現」が、はっきりと明らかな作例としては、丹波、金剛心院の如来立像が知られていますが、常福寺・千手観音像も、間違いなく「風動表現」がなされています。

金剛心院・如来像..衣が後方にたなびく金剛心院・如来像
「風動表現」の金剛心院・如来像(平安前期・重文)

常福寺像をみると、両サイドの衣の裾を、大きく後方に広がるようにたなびかせています。
前方から吹く霊風を受けているのです。
身体を弓なりにそらせ、前傾姿勢になっているのも、法華寺・十一面観音像によく似ています。
この表現が、千手観音像の迫力を増しているように思えます。

風動表現で弓なり姿勢、たなびく衣の常福寺・千手観音像
弓なり姿勢、後方にたなびく衣の「風動表現」の常福寺・千手観音像

これだけはっきりと衣を後方にたなびかせる「風動表現」の像は、法華寺像、金剛心院像、常福寺像ぐらいしか思いつきません。

井上正氏は、この「風動表現」を、盛唐期、画聖と呼ばれた呉道玄の様風の発するとして、「呉道玄様」と位置付けました。
呉道玄の「風動表現」は、「気韻生動」といわれる見えざる「気」を心に感じさせる表現として考案され、生動感を付与することによって、尋常でない「気」の内在を表そうとしたのだというものです。

「呉道玄様」かどうかはともかくとして、この「風動表現」が、霊気、霊風を感じさせ、仏像の神秘的霊威感を醸し出すことになっているのは間違いないことだと思います。

常福寺・千手観音像も「風動表現」が、怪しく雄大な存在感、迫力を発散させる源になっているのではないでしょうか。


雄大な力強さ、迫力を発散する「風動表現」の霊気漂う、常福寺の千手観音像。

繰り返しになりますが、小像ながら、平安前期のなかなかの優作です。
もう一度訪れてみた甲斐のある、嬉しい再会となりました。
拝観のご配意をいただいた、地区の皆様に感謝しつつ、常福寺を後にしました。


【耳寄り情報~常福寺・千手観音像が、秋の特別展に出展(30年ぶり?)】

お寺で、耳よりな話をお聞きしました。

常福寺・千手観音像は、年に一日限りご開帳の秘仏として守られているのですが、なんとこの秋に、博物館に出展されるということです。
津市の三重県立博物館で、10月5日(土)~12月1日(日)に開催される 「三重の仏像~白鳳仏から円空まで~」 という特別展です。
三重県内の見どころある仏像が勢ぞろいする必見の展覧会のようです。

2019年10月開催「三重の仏像展」

常福寺・千手観音像は、展覧会に出展されることはめったになくて、私の知っている限りでは、30年以上前、1986年に、三重県立美術館で開催された「三重の美術風土を探る展」に出展されて以来の、博物館出展ではないかと思います。

この時の展覧会の図録の表紙写真は「常福寺・千手観音像」でした。

「三重の美術風土を探る展」図録~常福寺・千手観音像が表紙写真
「三重の美術風土を探る展」図録~常福寺・千手観音像が表紙写真を飾る

これだけでも、この像が三重県の優作であることをお判りいただけると思います。

是非、この小像ながら「雄大で、霊威感、迫力溢れる、9世紀の優作」に出会いに、この秋、博物館に出かけられることをお薦めします。



次回は、林光寺と勧学寺の秘仏・十一面観音像のご開帳について、ご紹介いたします。


コメント

三重での展覧会教えて下さりありがとうございます。

  • 2019/08/22(木) 16:08:08 |
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  • みょうこう #-
  • [ 編集 ]

Re: 三重の仏像展

みょうこう様

いつも、ご覧いただき有難うございます。

私も「三重の仏像~白鳳仏から円空まで~展」は、愉しみにしております。
三重の仏像の大規模展は、2013年四日市市立博物館の「仏像東漸展」以来ではないでしょうか?
拝するのに出かけるのが結構大変な仏像が、沢山、出展されるのでしょうね。
どんな見どころある三重仏が出展されるのか、今から興味津々です。

  • 2019/08/23(金) 10:20:06 |
  • URL |
  • 観仏日々帖 #-
  • [ 編集 ]

三重県総合博物館の特別展

上記の常福寺千手観音、(パンフレット写真記載の)光善寺薬師三尊、善教寺阿弥陀如来の他では、下記の新しいパンフレットに何件かの出品作が出ています。
http://www.bunka.pref.mie.lg.jp/common/content/000849806.pdf
国重文指定の仏像彫刻は10数件とのことで、これ以外では白山町十一面観音、市場寺の阿弥陀如来坐像と四天王、新大仏寺の快慶作阿弥陀如来坐像が出ます。慈恩寺阿弥陀如来、普賢寺普賢菩薩、市場寺四天王(のうち2躯)は1971年の東博平安彫刻展、白山町十一面は昨年の三井記念美術館、新大仏寺本尊は奈良博快慶展に出たものです。

注目しているのは最近の快慶認定作である安楽寺の三尺阿弥陀です。奈良博快慶展に出なかったものですが、「目の眼」6月号「ほっとけない仏たち」(青木淳氏)に「三重県総合博物館に寄託中」と書かれていたので、早く展示してほしいと思っていました。また、もう1件、快慶周辺の地蔵菩薩も出るとのことで、快慶の地蔵立像は無位時代、法橋時代、法眼時代が揃っているので、どれに近いのか比べてみたいと思います。専門家の間では藤田美術館の像に近いという意見と、あまり似ていないという意見があるようです。

Re: 三重県総合博物館の特別展

むろさん様

「三重の仏像展」出展仏像情報、有難うございます。
コメントいただいた通り、三重県の優作仏像が数多く出展されるようですね。
三重の仏像はレベルが高くて、重文指定になっていない平安古仏にも見どころあるものが結構沢山ありますので、どんな仏像が出展されるのか、益々愉しみです。

快慶作、安楽寺・阿弥陀像は初出展だそうですね。
奈良博快慶展の図録で、未出展像として像容と墨書銘の写真だけが掲載されていましたが、これまた実見できるのが愉しみですね。

教えていただいた展覧会チラシには「新発見の快慶仏 二体初公開」と書いてあり、三重県総合博物館HPには、「新発見の快慶作 阿弥陀如来像や地蔵菩薩像も初公開します」と書かれていますが、新発見・地蔵菩薩というのはどこの仏像のことなのでしょうか?
http://www.bunka.pref.mie.lg.jp/MieMu/m0062500194.htm

  • 2019/08/31(土) 18:35:32 |
  • URL |
  • 観仏日々帖 #-
  • [ 編集 ]

快慶様の地蔵菩薩

新発見の地蔵菩薩がどこの仏像かは把握していません。また、「新発見の快慶仏 二体初公開」というパンフレットの表現は正確ではありません。(博物館の営業サイドが担当学芸員瀧川氏の了解を取らずに書いたものだろうと想像しています。)私の上記コメントでも「快慶周辺の地蔵菩薩」と表現しているように、快慶に近いもの、工房作といった程度に理解しておいた方がいいと思います。最近埼玉県立歴史博物館で公開された熊谷市東善寺阿弥陀如来と同様の「快慶様」の仏像でしょう。一方、安楽寺の阿弥陀如来は大津歴博の寺島氏が足枘の削られた文字を解読して以来、奈良博快慶展図録の執筆者(山口氏)を始め、山本氏、青木氏など快慶の専門家で快慶真作に異議を唱える研究者は誰もいないようで、これは信用できると思います。一口に「快慶周辺の仏像」と言っても、知恩寺阿弥陀のように極めて快慶作に近いもの、静岡新光明寺阿弥陀のように各時代の様式を寄せ集めたようなもの、安阿弥様と呼べる程度のものといった具合に様々なレベルの作品があるようです。今回展示される地蔵菩薩がどの程度のものなのか今から楽しみです。

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