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観仏日々帖

トピックス~各地でみられる、盗難対策「お身代わり仏像」安置の動き  【2019.2.23】


無住のお寺などに祀られる古仏像の盗難防止対策として、3Dプリンターなどで制作された「お身代わり仏像」を安置する動きが増えてきているというお話です。


【近年、各地で頻発する、仏像盗難被害】


近年、各地に伝わる仏像などの盗難被害が相次いでいます。

折々、新聞報道もされていますので、ご関心のある方はお気づきのことと思います。
地方の過疎地の無住のお寺に祀られる仏像などが狙われて、盗難に遭うことが多いようです。

特に、文化財指定されていない古仏などは、なかなかしっかりした防犯管理設備を施すことも難しく、ターゲットにされがちのようです。



【文化庁も、 「ストップ!盗難文化財」 の特設サイトを開設】


重要文化財や地方自治体指定の文化財でも、盗難に遭い行方不明になっているものも結構あり、文化庁でも、本年2月、 【STOP!盗難文化財】 というキャッチフレーズで、

「盗難を含む所在不明に関する情報提供について~取り戻そう!みんなの文化財~」

文化庁・STOP盗難文化財バナー

という特設サイトを文化庁HPに開設し、所在不明文化財の行方を突き止め取り戻そうという取り組みも進められています。

この文化庁の取り組みについては、日々是古仏愛好HP・盗難文化財ページ(2019.2.9)でご紹介した通りです。



【盗難被害対策として「お身代わり仏像」安置の動き~新聞報道も】


こうした中、盗難被害対策として「お身代わり仏像」仏像を制作し、これをお堂などにお祀りし、本物は博物館などに寄託するという動きが、各地でみられているようです。

こんな新聞記事が、目にとまりました。

「身代わり仏像」無人寺、本物は博物館に 盗難防ぐ~自治体・文化庁対策に注力

という見出しです。

2019年2月13日付の日本経済新聞朝刊のご覧のような記事です。

「お身代わり仏像」日経新聞記事2019.2.13

記事のエッセンスを自己流に要約すると、次のような内容になっていました。

近年、無人寺の仏像が盗難に遭う被害が相次いであり、なかにはインターネットオークションに出品されているのが見つかったというケースもあった。

過疎化が進み、地域などでは住民の管理に限界がある中、本物を博物館に預けてレプリカを安置するといった対策をとる動きがみられるほか、文化庁、自治体も盗難文化財対策に乗り出している。

和歌山県立博物館では、2012年から、地域で管理が難しい寺院の仏像を博物館で保管し、「お身代わり仏像」としてレプリカを安置する活動を進めている。
地元の工業高校などの協力を得て、3Dプリンターで樹脂製の仏像を作り、すでに県内12の寺院に25体を奉納した。

文化庁でも、盗難等による所在不明文化財についての「公開捜査サイト」を開設するほか、各自治体ベースでの文化財の所在確認等も進められている。
管理者不在の寺院の防犯対策は、地域に任せるだけではなく、国が関与していく必要が求められる。

このような記事が新聞に大きく出るというのは、何とも哀しい、情けない、嘆かわしい世の中になったと思います。
地域の人々の信仰の対象として大切に祀られている仏様を狙って、盗んで売り払うなどというのは、不届き千万そのものです。

そのように憤ってみても、現実には、仏像をお守りしている地域の人々にとっては、本当に切実な問題であることもよくわかります。



【地方の古仏探訪に出かけると、肌で感じる仏像をお守りする大変さ、難しさ】


私も、全国各地の田舎の村落にある無住のお寺の古仏を、随分訪ねて回りましたが、盗難に遭う危険と管理の大変さは、実感として肌で感じるものがあります。

無人のお堂や、地域の集会所のような処に古仏が祀られ、カギはかけられているものの、日常的に点検することもままならないという処が、沢山ありました。
普段は、訪れる人もめったにないという状況です。

管理をされている地域の方と、

「盗難に遭わないかと心配ですね」

という話題を交わすこともありますが、

「この仏様は、村落の人々が大切にお祀りしているのですが、管理していくのもなかなか大変なのですよ。
収蔵庫を造ったり、しっかりした防犯対策設備をするには、大変なお金がかかるので、なかなかできません。
仏様を修理するお金さえも、なかなか無くって・・・・・」

というお話を聞くことも、間々ありました。

重要文化財にでも指定されていると、補助金もそれなりに交付されるのですが、市町村指定や無指定の古仏は、地域の大切な「ほとけさま」として守られてはいるものの、管理費用などの経済的問題は、如何ともしがたいことのようです。



【「信仰の対象と盗難対策」という悩ましさの一解決策
~3Dプリンターでの「お身代わり仏像」安置】

こうした状況のなかで、近年、3Dプリンターで仏像のレプリカを制作し、このレプリカ仏像を「お身代わり仏像」として、無住のお堂などに安置し、本物の古仏は博物館等で保管管理するという動きが結構見られるようになってきました。

「地域の人々の信仰の対象としてお祀りすること」と、「文化財としての仏像の盗難防止対策」

という誠に悩ましい問題を解決する、一つの方策ということです。

本物と寸分違わぬような模造を制作するというのは、以前には、相当の費用が必要であったのですが、3Dプリンターによる制作技術が開発されて、圧倒的な低コストで、本物と見紛うような精巧なレプリカを制作できるようになりました。
そうしたことで、このような「お身代わり仏像」をお祀りすることが、広く可能になってきたものだと思われます。



【和歌山県博では地元校と連携、「お身代わり仏像」の制作安置による盗難防止対策を推進】


ご紹介した新聞記事にもあるように、こうした「お身代わり仏像」の制作安置による盗難防止対策を積極的に推進しているのが、和歌山県です。

和歌山県では、無住のお寺に祀られる古仏像の盗難被害が近年頻発しているこのから、和歌山県立博物館が主導して諸々の取り組みが進められています。

これまでも企画展として
「文化財受難の時代~いかに守るか」(2013年3月)、「防ごう!文化財の盗難被害」(2016年6月)、 「和歌山の文化財を守る」(2018年9月)
などが開催されました。

2012年からは、博物館と和歌山工業高校・和歌山大学と連携して、3Dプリンターで樹脂製の仏像を作り、彩色、古色づけをしたレプリカの「お身代わり仏像」を制作して、無人のお堂に安置し、本物は博物館で管理する取り組みが進められています。
すでに県内12のお寺に25体の「お身代わり仏像」が安置されたということです。

昨年9月に博物館で開催された、企画展「和歌山の文化財を守る」では、十数体の「お身代わり仏像」と「本物の仏像」が並んで展示され、こうした盗難対策への取り組みの紹介と、仏像盗難防止への啓発が行われました。

和歌山県博「和歌山の文化財を守る」チラシ1和歌山県博「和歌山の文化財を守る」チラシ2
和歌山県博・企画展「和歌山の文化財を守る」チラシ



【各地でもみられる、注目仏像の「お身代わり仏像」の制作】


和歌山での取り組みだけではなくて、盗難防止対策としての「お身代わり仏像」制作は、各地でもみられるようです。

近年、大きな注目を浴びた仏像で、文化財指定などを機にレプリカを制作し安置することになったという記事をいくつか目にしたことがあります。


この1~2年で、特に目に付いたものを、3つご紹介したいと思います。


〈京都市・八瀬妙傳寺の金銅半跏思惟像~2017年1月〉


2017年1月、京都市左京区、八瀬妙傳寺の金銅半跏思惟像のレプリカが、盗難対策として制作されました。

八瀬妙傳寺・金銅半跏思惟像
八瀬妙傳寺・金銅半跏思惟像

八瀬妙傳寺の金銅半跏思惟像は、従来、江戸時代の制作とみられていましたが、科学的調査などの結果、7世紀の古代朝鮮仏である可能性が極めて強まったということで、ホットニュースになった小金銅仏です。
2017年1月には、NHKニュースのほか、新聞各紙で大きく採り上げられ、大注目となった仏像です。

この新発見の話題は、観仏日々帖「模古作とされていた京都妙傳寺の小金銅仏、実は古代朝鮮仏と判明?」で、紹介させていただきました。

お寺では、盗難対策として3Dプリンターによる複製を制作し、お祀りされているようです。
実物は、博物館で保管されているのではないかと思われます。
NET上に「京都 八瀬妙伝寺の仏像を3Dスキャン・3Dプリンターを活用し複製を作りました」という記事が掲載されており、レプリカが作成されたことを知りました。


〈京都市・新町地蔵保存会の地蔵菩薩坐像~2017年6月〉


2017年6月、京都市左京区、新町地蔵保存会の地蔵菩薩坐像の3Dプリンターによるレプリカが制作され、地元の地蔵堂に祀られることになりました。

新町地蔵保存会・地蔵菩薩坐像
新町地蔵保存会・地蔵菩薩坐像

新町地蔵保存会・地蔵菩薩坐像は、平安前期、9世紀の制作で、重要文化財に指定されています。
平安前期一木彫像の地蔵菩薩像の古例として、大変貴重な仏像です。

1999年に発見され、2002年市指定文化財となり、2014年に国の重要文化財に指定されました。
町の小さなお堂に祀られており、2002年の市文化財指定を機に、火災、盗難対策の観点から京都国立博物館で保管されることになりました。

毎年8月の地蔵盆の2日間だけ地元の地蔵堂に戻して里帰りし、地元の人々がお参りしていましたが、2014年の国の重要文化財指定以降は、年に一度の里帰りも難しくなり、苦肉の策として、3Dプリンターによる模像をお祀りして、代替することになったということです。

新町地蔵保存会・地蔵菩薩像が祀られていた小さなお堂
新町地蔵保存会・地蔵菩薩像が祀られていた小さなお堂

この話は、観仏日々帖「京都・新町地蔵保存会の地蔵像、3Dプリンタ・レプリカをお堂にお祀り」で、ご紹介したことがありますので、ご覧ください。


〈仙台市・十八夜観世音堂の観音菩薩像~2019年1月〉


2019年1月、仙台市、十八夜観世音堂・観音菩薩像のレプリカが制作され、お堂に祀られることになりました。

十八夜観世音堂・観音菩薩像...新しく制作された十八夜観世音堂・観音菩薩像レプリカ
(左)十八夜観世音堂・観音菩薩像、(右)制作されたレプリカ

十八夜観世音堂・観音菩薩像は、奈良時代末期~平安初期の制作とみられ、東北地方最古の木彫像として、注目を浴びている仏像です。
2007年に発見確認され、2011年に市有形文化財、2016年には県有形文化財に指定されました。

県指定文化財指定時に、日々是古仏愛好HP・特選情報「仙台市・十八夜観世音堂の東北最古?菩薩像が、県指定文化財に」(2016.2.6)で、この仏像についてご紹介していますのでご覧ください。

2008年から、仙台市博物館で保管されていますが、地元住民には菩薩像が本堂にないことを寂しがる声があり、観世音堂の保存会が県や博物館と相談し、3D技術を活用してレプリカが作成されることになりました。
今年5月から十八夜観世音堂にレプリカが祀られるということです。

十八夜観世音堂(仙台市太白区)
十八夜観世音堂(仙台市太白区)

河北新報オンラインニュースに「東北最古の木彫像を3D再現し安置 仙台・十八夜観世音堂「観音菩薩像」5月本堂へ」という記事が掲載されています。

最近目についた、3Dプリンターによる「お身代わり仏像」制作の話を、ご紹介しました。


古い昔から、地域の人々の厚い信仰のおかげで、長年にわたって守られてきた仏様を、
「貴重な文化財だから、盗難対策としてそのままお祀りしておくわけにもいかないから。」
という理由で、博物館に移して保管管理せざるを得ないと云われても、何とも割り切れない気持ちになってしまうことと思います。

また、
「レプリカを安置するので、日頃は、その仏様を拝んでください。」
と云われても、レプリカはあくまでもレプリカです。

長年お守りしてきた仏像とは違うもので、拝する人々にとって見れば、これまで通りに気持ちを籠めてお参りするというのも、なかなか難しい処もあろうかと思います。

しかし、古仏像の盗難が頻発する現状と、対応策のコストなどを考えると、3Dプリンターによる「お身代わり仏像」の制作安置というのは、

「仏教美術の貴重な文化財としての仏像」と「信仰の対象として祀られる仏様」

という悩ましい問題に、何とか折り合いをつける方法としては、現実的な対応と云えるのでしょう

また、地方の古仏探訪を愛好するものにとってみれば、鄙びた田舎にあるお堂を訪ねて、地域の人に守られる古仏を拝するのは、博物館で同じ仏像を観るのとは全く違う、心うつ感動、感激を味わうものです。

そうした、土地々々に根差し守られてきた古仏が、レプリカにとって代わるというのは、何とも残念な気持ちにもなってしまいますが、大切な文化財を守っていくためには、こうしていくしかないのだろうと思います。

きっと、「お身代わり仏像」という方法がベストという訳ではないのでしょうが、大きなコストをかけずに、上手に対応していく一つのやり方として、これからますます増えていくことと思います。


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