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観仏日々帖

新刊旧刊案内~嬉しい、一目瞭然の「図版吹出し解説」 芸術新潮・運慶特集(2017/10月号)  【2017.11.5】


この秋、
「どこもかしこも、運慶で持ち切り!」
といった有様です。

東博・運慶展の盛況ぶりはもとより、テレビも運慶番組を連発、本や雑誌も「運慶の・・・」という特集本が数え切れないほどです。
ここまでヒートアップするのかと、あきれてしまいますが、今更ながらに「運慶の威力」を思い知らされたような気がします。

書店の新刊棚には、「運慶本」と「運慶特集雑誌」が、これでもかという程に沢山並んでいて、どれもこれも大同小異という感じです。



【こんなスタイルの仏像解説本を待っていた~芸術新潮・運慶特集】


その運慶本のなかで、

「オーッ! こんな仏像解説を、待っていたのだ!」
「こんなスタイルの仏像解説本があると、嬉しいのだけれど!」

そう、前から思っていた本を見つけたのでした。

それは、
 「芸術新潮 2017年10月号 ~特集・オールアバウト運慶~」
です。

芸術新潮・オールアバウト運慶~2017年10月号


私が、「こんなのを待っていた、これは嬉しい」と思ったのは、ここで論ぜられている運慶についての解説の内容云々ではなくて、
「仏像解説のレイアウト」
なのです。

掲載された仏像写真のそれぞれのパーツに、線引きで吹き出しがあり、コンパクト解説が付されているのです。
円成寺・大日如来像の写真&解説を、ご覧になってみてください。

芸術新潮・掲載の円成寺・大日如来像の「図版吹き出し解説」
芸術新潮・掲載の円成寺・大日如来像の 「図版吹き出し解説」


【特徴、着目ポイントが一目瞭然の「図版吹き出し解説」】


如何でしょうか?

新スタイルです。

これまでの仏像の解説本は、仏像写真と解説文が、「写真は写真」「解説文は解説文」と、それぞれ別々に掲載されていたと思います。
この芸術新潮・特集では、仏像写真そのものの各部や衣文などの注目パーツに、直接線引きを施して、吹き出し的にポイント解説が書かれているのです。
「運慶作品カルテ」と題されており、監修:瀬谷貴之氏、文:高山れおな氏(新潮社)ということです。

私は、 「画像吹き出し解説スタイル」  と名付けてみました。

このスタイルの仏像解説本は、ご紹介の「芸術新潮・運慶特集」が本当に初めてなのかどうか、判りません。
私は、これまで見たことがある本・雑誌では、出会ったことがありませんでした。

美しい仏像写真を鑑賞するという意味では、吹き出し線が各所にあると、目障りになるのかと思います。
しかし、その仏像の特色、着目ポイントを、一目瞭然で即座に理解するには、これほどに判りやすいスタイルは無いと思うのです。


それでは、芸術新潮の円成寺・大日如来像写真には、どのような「画像吹き出し解説」が付されているのでしょうか。
その解説文を、一通りご紹介します。


【頭頂部】
冠から上端がとびだす程の高々とした髻は平安初期の作例に倣うものだが、正面を花形に束ねるのは僧の仏画の影響か。

【天冠台部】
冠は後補だが天冠台(てんかんだい)は当初のもの。
通常は木から彫り出すが、金属製としたのは新機軸。

【眼部】
玉眼は目に水晶をはめることで現実感を出す技法で、鎌倉時代に一般化する。
この像は玉眼を使用したもっとも早い例の一つ。

【条帛部】
上半身をタスキ状にめぐる条帛(じょうはく)は、本体と別材で作って貼り付けている。
こんな面倒な方法をとった理由については28~29頁のコラム参照。

【腕部】
胸の前で左手をこぶしに握り人差し指をたて、それを右手で握るのが智拳印(ちけんいん)
金剛界大日のしるしである。
胎蔵界大日はお腹の前で掌をかさねる定印(じょういん)を結ぶ。

【膝前部】
下半身をおおう裳(も)と腰布に刻まれた衣文は、当時の主流だった定朝様の非常に浅く、様式化した衣文にくらべ、より自然な印象。
ただ、後の願成就院や浄楽寺の像にくらべれば、まだおとなしめ。

【台座部】
台座のうちいちばん上の蓮華部(れんげぶ)は当初のもの。
大正10年(1921)の修理に際し、その天板の裏から墨書銘が発見された。
これが近代的な運慶研究の出発点になった。

【台座下部】
台座の敷茄子(しきなす)から下框(したがまち)にかけては、美術院による補作。

【光背部】
光背の周辺部は失われたが、円盤状の頭光(ずこう)と身光(しんこう)は当初のもの。



このような感じです。
写真の当該部分に、このようなワンポイント解説が吹き出していますので、本当に、「一目瞭然」、判りやすいのです。
文章の説明を読んで、その当該部分の写真をみつけて確認しなくても、一目で頭にスーッと入ってくるのです。



仏像の姿や形、構造などを、文字、文章で、きっちり表現、説明するというのは、なかなか厄介なことのように思えます。

その例を、いくつか見てみたいと思います。


【資料的、学術的に完璧な記述の「日本彫刻史基礎資料集成」~無味乾燥で、難しい】


一番、資料的、学術的な説明文というと、なんといっても 「日本彫刻史基礎資料集成」(中央公論美術出版社刊) ということになるでしょう。

この本では、このような項目立てで、順に表記されています。


【銘 記】

【形 状】

【法 量】

【品質構造】

【伝来】

【保存状態】


「日本彫刻史基礎資料集成・第4巻」の円成寺・大日如来像の解説
「日本彫刻史基礎資料集成・第4巻」の円成寺・大日如来像の解説

まさに、基礎資料ですから、事実が淡々と記されているだけです。

これ以上の精密な表記はないのでしょうが、読む側にとっては無味乾燥そのものと云えるものです。
相当に、表現に慣れないと、どのような形状や構造を説明しているのか、皆目判らないというのが本音の処です。



【つい面倒で読み飛ばしてしまう、論文の造形・構造の記述~文字だけの記述は、判りにくい】


論文などの、仏像の姿かたち、造形や構造について述べた文章も、なかなか判りにくいのではないでしょうか。
私などは、そこの処は、とっつきにくくて、ついつい読み飛ばしてしまいます。

例えば、円成寺大日如来について、山本勉氏が書かれた論文、

「円成寺大日如来像の再検討」 (山本勉 )国華1130号 1990.1

では、このあたりの処が、どのように記述されているでしょうか?

形状については、

本像は像高98.2㎝、髪際高76.8㎝の等身大で、智拳印を結び、右脚を外にして結跏趺坐する金剛界大日如来像である。
いわゆる高髻を結び、頭髪はすべて毛筋彫りとする。
鬢髪一條が耳をわたる。
もと各耳後ろをとおって肩上にいたる垂髪をあらわしていた(今右肩部分のみ残る)
白毫相をあらわす(水晶嵌入、大正修理時の新補)
天冠台を付け、その上に宝冠を戴く(いずれも銅版製鍍金、宝冠は近世の新補)
條帛をかけ、折返しつきの裙をつけ、腰布を腹前で結ぶ。
銅版製鍍金の胸飾り・臂釧・腕釧をつける(胸飾りから瓔珞を垂らす)
光背は、頭光、身光、光脚からなる二重円光で、いま周縁部を失っている。
台座は六重の蓮華座であるが、敷茄子以下の部分は大正修理時の新補である


構造については、

本像はヒノキ材の寄木造で、玉眼を嵌入する。
頭・体の根幹部は正中線で左右二材(幅左方22.2㎝、右方23.6㎝、奥各26.5㎝)を矧ぎ寄せて彫成する。
左右二材とも内刳りをほどこしたうえで、三道のやや下方で割首する。
両脚部は横木一材製(奥24.0㎝)で内刳りし、両腰脇部に各一材(内刳り)、裳先を矧ぐ(亡先)
両腕は肩・上膊半ば(臂釧の取り付け位置)、臂、手首で矧ぐ。
髷は別材製で丸枘(大正修理時の新補)を雇枘として挿しこむ(大正修理時の図解によると頭頂のそれを受ける部位に薄板一枚をはさむようである)
後頭部下方に矧ぎ目をはさんで左右各一の矧ぎ木(大正修理時の新補)がある。
像表面は、頭髪部をのぞいて布貼り錆漆下地をほどこしたうえ漆箔しあげとする。
頭髪部は木地に群青彩とし、元結い紐は朱彩とする。
・・・・・・・・・・

このように記述されています。

ウーンと唸ってしまいます。

確かに、凝縮して精密に記述すれば、このようになるのだと思います。
論文の記述としては、絶対に必要なことなのでしょう。

ところが、恥ずかしながら私には、この記述の文章をすらすらと読んで、仏像の姿かたちやその構造、後補部などが、手に取るように浮かんでこないのです。

研究者の人は、このような記述が、苦も無くすらすら出来て、読んだだけで写真映像のように、仏像の姿かたちが、頭に浮かんでくるのかもしれません。

しかし、私などには、チンプンカンプンとまではいいませんが、慣れていないせいか難解表現で、写真を横に置いて一つ一つチェックしてみて、やっとこさ記述内容が、何とか判るという処です。
そんなわけで、仏像の姿かたち、構造の詳細記述の部分は、とっつきにくくて、面倒臭くて、ろくすっぽ読みもせずに、読み飛ばすのが常というふうになってしまっています。



【啓蒙書でも、造形・構造のコンパクトで平易な記述は、なかなか大変】


これは、研究論文の話でしたが、一般向けの啓蒙本でも、仏像の姿かたちや構造などを、誰にもわかりやすく平易に記述するのは、なかなか骨のようです。

昔、平成の最初の頃、ベストセラーになったこの本、

「魅惑の仏像」全28巻 毎日新聞社刊

の、円成寺・大日如来像の巻(第28巻・1996刊)の記述を見てみたいと思います。

「魅惑の仏像・第28巻~大日如来」毎日新聞社1996年刊

西川杏太郎氏の解説記述です。

「しかし円成寺の大日如来像は(注:藤原風の仏像とは)だいぶ違います。
頭髪は毛筋を細かく刻み出し、頭上の髻も膨らみを持たせて高く豊かに結い上げていますし、肉厚く引きしまった体の肉付けにも、またゆったりと組んだ両膝に自然に流れるように刻む衣のひだにも、大変個性があります。
・・・・・・・
上体は両肩や背中に肉を厚くつけ、腰できりりと引きしめ、智拳印を結ぶ両腕のかまえ方も、空間をゆったりと抱きかかえるようにまとめ、全体として安定感のある力強さが示されています。」


「この大日如来像は檜の寄木造で、眼には玉眼(レンズ状にみがいた水晶の眼を内側から嵌め、これに瞳を描いてあらわす技法)をはめています。

「魅惑の仏像」円成寺・大日如来像の解説掲載の構造図
「魅惑の仏像」円成寺・大日如来像の解説掲載の構造図

図に示したように鼻筋を通る正中線を境にして、頭部から胴までを左右二つ各材(A・B)を矧ぎ合わせ、両膝には横一材(C)を寄せるという寄木造の技法で造られています。
そして頭頂の髻(D)、両腕(肩、上腕、ひじ、手首で接合)、それに両腰脇(E・F)などに別材を寄せる典型的なものです。
像の内部は、きれいにくりぬいて空洞にし、また制作の途中で頸筋にノミを入れて頭と胴を割り離し、像の細かい部分の彫刻を済ませてから再び頭と胴を接合する「割り首」(S)の技術も用いています。
・・・・・・・・・
台座は、蓮肉と蓮弁は古いのですが、これ以外の部分はすべて大正時代の修理の時に奈良美術院(美術院国宝修理所)によって後補され、六重蓮華座に仕立てられているのです。
光背は二つの円相をつないだ二重円光で、これは像と同時の制作です。
いまその外周につけられた周像はすべて失われています。」

読んで見られて如何でしょうか?

先の研究論文の記述に較べると、格段に平易で判りやすく、私にでもイメージがわいてくる感じはします。
ただ姿、形の各部分を、わかりやすく記述するというのは、なかなか難しそうです。
きちっと書くと、文章が長くなってしまうからか、かなり省略というか簡単に記されています。

構造の方も、文章でこれを平易に説明するというのは、なかなか骨が折れることが伺えます。
構造略図が掲載されているので、これを横目に見ながら読むと、なるほどと、よく判ります。


ご紹介したような、これまでに書かれた論文や書籍の、
「仏像の姿かたちの記述、構造、後補部分の記述、造形の特徴の記述」
などを、読んでいると、

気を入れて読んでやろうと思う時は、写真図版といちいち照らし合わせながら、ちゃんと理解するように頑張ってみるのですが、普段は、ついつい適当に読み飛ばしてしまいがちになっています。



【仏像写真図版に吹き出し解説を入れると、一目瞭然?~かねがね、思っていたこと】


「仏像写真図版の当該部分に、直接、解説記述を吹き出しのように入れてくれると、素人には本当に判りやすいんだがなー・・・・・」
「図版吹き出し解説スタイルの本があれば、一目瞭然で、本当嬉しいな!」
「図版吹き出し解説をいったん見てから、その後でしっかりした文章解説を読めれば、最高なんだけれども・・・」

そんなことを、かねがね、心の中で考えていたのです。

そんなことは、
「ちょっとマニアックな愛好者の我儘なのか?」
と思っていた処、

新刊の「芸術新潮・運慶特集」で、そのようなスタイルが一部採用されているのを見つけたというわけです。

「これは嬉しい、一目瞭然 !!」
「我が意を得たり !!」

と喜んでしまいました。

「芸術新潮・運慶特集」では、ご紹介の、円成寺・大日如来像だけではなくて、主なる運慶作品について、このスタイルの「図版吹き出し解説」が掲載されています。

一二、ご紹介すると、ご覧のような感じです。

芸術新潮・掲載の願成就院・阿弥陀如来像の「図版吹き出し解説」
芸術新潮・掲載の願成就院・阿弥陀如来像の「図版吹き出し解説」

芸術新潮・掲載の光得寺・大日如来像の「図版吹き出し解説」
芸術新潮・掲載の光得寺・大日如来像の「図版吹き出し解説」

このような「図版吹き出し解説」スタイルの本が、もっともっと増えていってくれると、嬉しいなと思います。

芸術新潮の「図版吹き出し解説」は、ちょっと簡単すぎて物足りない感もあります。
「吹き出し解説」をもっと詳しくするとか、側面、背面写真も入れて「図版吹き出し解説」を付けるとかいう本が出現すれば、仏像の姿かたち、造形の特徴、構造、後補部分などが、より詳細に一目瞭然でになって、嬉しいなと思う処です。


ずっと前から、こんなスタイルの仏像解説があったら良いなと思っていた「図版吹出し解説」スタイル本を発見して、ちょっと嬉しくなって、紹介させていただきました。



【ついでにご紹介~とても便利な、仏像持物などのイラスト吹き出し解説本】


ついでにご紹介ですが、

「仏像図解新書」 石井亜矢子著・岩崎隼画 小学館新書 2010年刊

という本も、なかなか役立つ本です。

「仏像図解新書」 小学館新書 2010年刊

仏像の諸尊格、即ち、如来・菩薩・明王・天部の、それぞれの尊像別に、持物や着衣、飾り物、印相などなどの名称と一言解説を、 「イラスト図吹き出し解説」 したものです。

釈迦如来、薬師如来、阿弥陀如来、千手観音、不空羂索観音、如意輪観音・・・・・・
といった尊像別に、いわゆる「儀軌」に定められた、印相や持物、着衣等の名称が「イラスト図吹き出し」で記されています。

80余の尊像について、イラストが載せられていますが、そのうちのいくつかをご覧ください。

「仏像図解新書」掲載の十一面観音のイラスト吹き出し解説
「仏像図解新書」掲載の十一面観音のイラスト吹き出し解説

「仏像図解新書」掲載の如意輪観音のイラスト吹き出し解説
如意輪観音のイラスト吹き出し解説

「仏像図解新書」掲載の降三世明王のイラスト吹き出し解説
降三世明王のイラスト吹き出し解説

「仏像図解新書」掲載の梵天のイラスト吹き出し解説
梵天のイラスト吹き出し解説


それぞれの尊像の「印相や持物の名称」がまさに一目瞭然で、大変便利です。

先程来ふれてきた、論文などに記述された、仏像の姿かたちの表現を理解するためのアンチョコに格好な新書で、お薦めです。


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