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観仏日々帖

新刊・旧刊案内~「奈良・大和を愛したあなたへ」 千田稔著   【2018.7.19】


読んでみると、ほのぼのとした心温まる気持ちになりました。

「奈良愛」とでもいうのでしょうか?
「奈良」という地へ心寄せる、深い愛情を感じる本でした。


「奈良・大和を愛したあなたへ」 千田稔著 2018年1月 東方出版刊 【162P】 1600円


千田稔著「奈良・大和を愛したあなたへ」



【近代奈良ゆかりの人々への想いを綴った本~41人へ差し出す手紙】


この本、明治以降の「近代奈良」にゆかりのあった著名人、学者、文化人、41人について綴った本です。
「41人へ差し出した手紙」という形式をとって、彼らの奈良での足跡や状況、作品などをたどり、当時の思いに寄り添いつつ、著者自身の奈良への愛惜が綴られています。

「近代奈良を彩る人物の紹介本」のようなつもりで、ページをめくっていったのですが、読み進むうちに、著者の「ほのぼの、しみじみとした深い奈良愛」の方に心惹かれるような気持ちになってしまいました。

本の帯に

「奈良にゆかりの 多彩な人たち その足跡に 思いを寄せ 大和への 愛情を綴る」

と書かれていましたが、まさにそのとおりです。

目次をご覧ください。

「拝啓 伊藤博文様」から始まって、著者から41人へ差し出す手紙の形式がとられています。

「奈良・大和を愛したあなたへ」目次1

「奈良・大和を愛したあなたへ」目次2

「奈良・大和を愛したあなたへ」目次4「奈良・大和を愛したあなたへ」目次3


採り上げられた人物、その小見出しをみると、近代奈良の文化史にご関心のある方ならば、大変興味深いラインアップになっていると感じられると思います。

私は、近代奈良の文化史に関心が強く、神奈川仏教文化研究所HPに、 「近代奈良と古寺・古文化をめぐる話 思いつくまま」(埃まみれの書棚から・第24~31話) という連載を掲載したりしていますので、この目次を見ると、そこで採り上げたテーマピタリの項目もいくつかあって、益々、読書欲をそそられてしまいました。



【著者の「奈良愛」がにじみ出す語り口】


著者の千田稔氏は、著名な歴史地理学者で、数多くの著作がある方なので、ご存知の方も多いのではないかと思います。

千田稔氏
千田稔氏
千田氏は、1942年、奈良県生まれ。
本書に、「奈良愛」が、にじみ出しているように感じるのも、ご自身が奈良の地に生まれ育ったということからなのでしょう。

千田氏は、あとがきで

「本書には、明治よりこの方、いわば往年の奈良を訪れた、あるいは奈良に関心をもった各分野で名の知られた人々の筆によって奈良に寄せる思いを書かれた文に寄り添って、私からその方々へ差し上げた手紙という形式をとってみた。
本書にとりあげた方々の文に接しながら、奈良に対して愛惜の念が漂うのを思わざるをえなかった。」

このように語っています。

その語り口と、内容のさわりに、ちょっとだけ触れていただけるように、
「拝啓 関野貞様」の最初のページを、ご覧いただきたいと思います。

「奈良・大和を愛したあなたへ」~関野貞ページ


名宛人に寄せる想い、ほのぼのとした語り口を感じていただけたのではないかと思います。
随想的な文章なのですが、歴史地理学者である深い学識に裏打ちされた内容で、近代奈良文化史にかかわった、それぞれの人々の足跡やエピソードが奥深く紹介されています。

一気に読破してしまいました。

奈良の近代文化史と人物にご関心ある方には、是非、おすすめの一冊です。

著者の千田稔氏は、現在、奈良県立図書情報館の館長も務められています。
本書は、そうしたことから奈良のフリーペーパー、雑誌「喜楽」に2006年から21012年にかけて、連載掲載されたものが、単行本化されたものだそうです。



【公募で「奈良・大和を愛したあなたへ」エッセイも募集】


この連載は、好評であったようで、奈良県立図書情報館では、千田館長の連載だけではなく、一般からの公募も企画してみようということで、2010年に、県立図書館創立100周年記念「奈良・大和を愛したあなたへ」エッセイ募集というイベントが実施されました。

7件のエッセイが、入選となったようです。

入選作品については、
「奈良県立図書情報館のイベント情報
「奈良・大和を愛したあなたへ」エッセイ募集 審査結果について
で、読むことが出来ます。

ご関心ある方は、ご覧になってください。



【近代奈良の文化史ゆかりの人物を採り上げた本のご紹介】


ところで、本書に名前が挙げられているような、近代奈良の文化史にゆかりのある人物について、まとめて記されたような本は、有るようで意外と無いものです。

近代奈良の文化的な出来事などについて書かれた、いわゆる「奈良本」という随筆本の中に、折々、ポツポツと語られていることはあるのですが、人物だけを採り上げてまとめた本は、ほとんどありません。

そんな中で、近代奈良文化史にかかわる人物をテーマにしたような本を、私の知る限りで、ちょっとだけご紹介しておきたいと思います。


「大和百年の歩み 社会人物編」 1972年 大和タイムス社刊 【718P】 4000円

「大和百年の歩み 社会人物編」


大和タイムス社の明治百年記念事業として刊行された、奈良県近代の百年史の三部作「政経編、文化編、社会人物編」の中の一冊です。
分野を限らず、奈良近代史にかかわった重要人物、130余名の列伝が記されています。

文化史的な分野では、
北畠治房、森川杜園、棚田嘉十郎、溝辺文四郎、加納鉄哉、水木要太郎、保井芳太郎、高田十郎、森本六爾、富本憲吉、新納忠之助
等々が、採り上げられています。



「文士の大和路」 田中昭三著 1998年 小学館刊 【127P】 1600円

「文士の大和路」

奈良にゆかりの深い文士たちについて、その文学作品、奈良での歩いた道や宿、足跡、エピソードなどをたどったガイドブック的なエッセイ本です。
司馬遼太郎、志賀直哉、和辻哲郎、森鴎外、堀辰雄、折口信夫、会津八一、幸田文、亀井勝一郎、水原秋櫻子、谷崎潤一郎、佐多稲子、
の12名の文士が採り上げられています。
関連のコラムも豊富で、気楽に愉しく読める本です。


「奈良まち 奇豪列伝」 安達正興著 2015年 奈良新聞社刊 【335P】 1500円

「奈良まち 奇豪列伝」

書名のとおり、奈良に在住した「奇人、奇豪」と呼ばれる人物の列伝。
ほとんど知られていない人物かもしれませんが、
石崎勝蔵、工藤利三郎、左門米造、ヴィリヨン神父、吉村長慶
という人物の列伝が語られています。


「奈良百題」 高田十郎著 1943年 青山出版社刊 【350P】 5.1円

「大和寸感」 青山茂著 2005年 青垣出版刊 【316P】 2100円

「奈良百題」「大和寸感」

この2冊は、いわゆる「奈良通」によって綴られた、「奈良本」です。
昭和前期と近年に発刊された本ですが、いずれも、近代奈良の文化的な事柄、出来事についての寸評、エピソードなどが綴られた随筆本です。
この中に、近代奈良の文化史にかかわった人々の話が、頻繁に出てきて、読み進むうちに、これらの人々についての諸々のエピソードを知ることが出来ます。


近代奈良にゆかりのある人への愛惜を綴った本「奈良・大和を愛したあなたへ」のご紹介とともに、近代奈良文化史にかかわる人物を採り上げた、いくつかの本にふれさせていただきました。


古仏探訪~回想の地方仏探訪⑧ 「井上正・古密教彫像を巡る」 【2018.7.6】


【50歳代半ばで、再び「地方仏探訪」の世界へ~30年ぶりの探訪再開】


長年、ご無沙汰だった「地方仏探訪」を再開したのは、50歳代半ば頃、十数年前のことであったでしょうか。

孝恩寺の仏像群に、強い刺激を受けてから、5~6年後であったと思います。
会社勤めになってからは、全くのご無沙汰でしたので、30年以上ぶりに「地方仏探訪」を再開したということになろうかと思います。

仕事の方も、少しばかりは余裕が出てきて、学生時代に訪ねた東北の地方仏を、一人で懐かしく再訪してみたりしました。

「地方仏探訪への情熱」が、少しずつ、蘇ってくるようになりました。
このHP(神奈川仏教文化研究所)の母体であった東京寧楽会主催の仏像探訪旅行に参加させていただいたり、カルチャースクールの仏像講座に顔を出したりするようになりました。



【若き日以上に、地方仏探訪にハマって熱中~全国各地を跳び回る】


そんな中で、仏像愛好の仲間もできるようになり、一緒に「地方仏探訪」に出かけるようになりました。

「今度は、○○地方の仏像を観に行きましょう。
その次は、**寺のご開帳があるから、そのあたりの仏像も一緒に訪ねてみましょう。」

という風に、すっかりハマってしまいました。

学生時代以上に、地方仏探訪に熱を上げるという感じになりました。

地方仏探訪を再開してから、十数年、随分各地の古寺、古仏を巡りました。
北は東北から、南は九州まで、巡りました。
どのくらいの数を回ったかといわれると、よくわからないのですが、振り返ってみますと、全国都道府県の中で、仏像探訪のために訪れていないところは、「北海道、新潟県、熊本県、長崎県、宮崎県、沖縄県」だけになります。
残りの41の府県は、大なり小なり「仏像探訪」のために訪れたということです。

よく、凝りもせずに、飽きもせずに、出かけているものです。
どこがそんなに面白いのかと、呆れられてしまいそうですが、
きっとこれからも、
「どこそこの仏像が、何十年ぶりでご開帳される」
とか、
「あそこには、平安古仏の地方仏があるようだ」
という話になると、せっせと出かけていくことになろうかと思います。

思い出深い地方仏、心に残る地方仏もたくさんあるのですが、一つ一つふれているとキリがありませんので、やめておきます。



【井上正著「古仏」という本で知った「古密教彫像」という世界~今も、こだわり探訪中】


ここでは、一つだけ、私が、
「今も、こだわりを持って、訪ね続けている古仏たち」
について、ご紹介しておきたいと思います。

それは、
「井上正一氏が、自著作で採り上げている“古密教彫像”といわる古仏」
です。
「そんなもの、よく知らない。」
といわれてもという方も、結構いらっしゃるのではないかと思います。

私が、
「井上正氏 の 古密教彫像」
という話を、
初めて知ったのは、40歳頃のことであったと思います。
書店で、「古仏~彫像のイコノロジー」(井上正著・昭和61年・法蔵館刊)という本が出ているのを見つけました。

井上正著「古仏」(法蔵館刊)

そこに、若き日最後の地方仏探訪となった「観菩提寺・十一面観音像」が、採り上げられていたのでした。

井上正著「古仏」に採り上げられている観菩提寺・十一面観音像
井上正著「古仏」に採り上げられている観菩提寺・十一面観音像

懐かしくなって、迷わずこの本を買いました。
この本に採り上げられていたのが、井上正氏の言う「古密教彫像」というものでした。



【不思議なオーラ、気迫勝負の仏像ばかりのラインアップに強く惹かれる】


ページをめくっていくと、

「アクの強い、クセのある仏像」「不思議なオーラを発している仏像」

ばかりが登場します。
変わった仏像なのですが、何故か、強く惹き付けられる魅力あふれる仏像ばかりなのです。
前回ご紹介した「大阪 孝恩寺の古仏群」も、この本にしっかり採り上げられていました。

奇怪な表情であったり、強烈な肥満体であったりして「異形の歪んだ造形」の仏像ばかりです。
「気迫勝負の仏像」と云っても良い感じで、造形の出来の良さを度外視したかのようですが、強烈なインパクトを感じます。

この本に採り上げられている仏像の「目次」をご紹介すると。ご覧のとおりです。


「古仏~彫像のイコノロジー」 採り上げ仏像一覧 【目次】
「古仏~彫像のイコノロジー」採り上げ仏像~目次



【「奈良時代に遡る制作」「霊木化現仏」という新発想を提起した井上正氏】


井上氏は、本書に採り上げた仏像を、
「烈しい霊威表現の仏像」、「尋常ならざる精神性を発する表現の仏像」
と呼んでいます。
そして、「行基開基伝承」と結び付け、多くの仏像が奈良時代の制作に遡る古密教系彫像なのではないかという仮説を提起しています。
また、「霊木化現仏」という考え方を示して、霊木から仏の姿が顕現する途上の有様を表現するために、背面の彫りや後頭部の螺髪の省略、眼の形を彫らない表現の造形がなされているものが多々あると指摘しています。

井上正氏の「古密教彫像」についての考え方などについては、以前に、
「観仏日々帖 新刊旧刊案内~井上正著「続・古仏 古密教彫像巡歴」  【その1】  【その2】
で、ご紹介していますので、ご参照いただければと思います。

私は、これらの仏像が、「奈良時代の制作に遡る」とか、「霊木化現表現である」とは、なかなか思えません。

それはそれとして、井上正氏の眼で選ばれた「井上正ワールドの古密教彫像」というものに、強く惹かれる魅力を感じました。
是非、直に拝して、見てみたいものだと思いました。

地方仏探訪を再開してから、この本の中の気になる古仏をいくつか訪ねてみました。
京都 勝光寺・聖観音像、滋賀 大岡寺・薬師如来像、兵庫 楊柳寺・楊柳観音像・十一面観音像
あたりを、手始めに訪ねてみました。

いずれも、期待に違わず、「強いオーラを発する、インパクト十分の仏像」でした。

「これは、凄い迫力だ!」

と、強く惹き付けられてしまいました。

先にご紹介した、観菩提寺・十一面観音像、孝恩寺・仏像群もそうですが、どの仏像も、「強い“気”」を発散させているのです。
異形なのですが、デモーニッシュなエネルギーを発散させているのです。
得も言われぬ、不可思議な魅力を感じました。



【「3つの雑誌連載シリーズ」で採り上げられていた、96件の「古密教彫像」】


「古仏~彫像のイコノロジー」という本は、日本美術工芸という雑誌に掲載された「古仏巡歴」という連載が単行本化されたものです。
これには、その続編、続々編があって、同じ雑誌に連載されていることを知りました。
「古密教彫像巡歴」「古仏への視点」と題する執筆文で、全部「古密教彫像」について採り上げているのです。
続編、続々編は、単行本化されていませんでしたので、早速、図書館で掲載誌のコピーを全部取って、これもまた探訪先の候補として加えました。

~「古密教彫像巡歴」は、後に「続古仏・古密教彫像巡歴」と題して、2012年に単行本化されました。~

井上正著「続 古仏」(法蔵館刊)


そこでの、採り上げ仏像の「目次」は、次のとおりです。


「古密教彫像巡歴」採り上げ仏像一覧 【目次】
「古密教彫像巡歴」採り上げ仏像~目次
「日本美術工芸」580~615号連載(1987.1~1989.12)


「古仏への視点」採り上げ仏像一覧 【目次】
「古仏への視点」採り上げ仏像~目次
「日本美術工芸」652~675号連載(1993.1~1994.12)


「古仏~彫像のイコノロジー」「古密教彫像巡歴」「古仏への視点」
の3つのシリーズを合わせると、採り上げ仏像の目次の件数は、96件になります。

良く知られた仏像の名前もいくつかはありますが、その多くは、あまり知られていない仏像なのではないでしょうか。
私も、聞いたこともない知らない仏像の名前が、たくさん並んでいました。

まさに「マニアックな仏像」と云って良いのかもしれません。



【頑張って、こだわって訪ねるうちに、そのほとんどを拝観】


これらの「井上正ワールドの古密教彫像」を、少しずつ見て回っているうちに、その不思議な魅力にハマってしまいました。
チャンスがあれば、ちょっと無理をしてでも訪ねるようになりました。

段々と、訪ねた仏像の数が増えていくうちに、

「何とか、この96件、全部の古仏を見てみたいものだ!」

と念ずるようになってきました。

「井上正・古密教彫像探訪の完全制覇へのチャレンジ」

に、こだわりを持つようになってきました。

ご覧のとおり、知られざる古寺、古仏という感じなので、随分辺鄙なところにあったり、無住のお堂に祀られた仏像であったりして、

「訪れるのも、なかなか大変。
拝観のお願い、ご了解をいただくのも、結構大変。」

という処が、多いのです。
厳重秘仏になっているものもあります。

拝観のご了解をいただくのに苦労したこともありましたが、一生懸命回ってきました。
この十数年を、振り返ってみると、これらの古仏のほとんどを、直に拝することが出来ました。



【残すは5件のみ~念願の全件完全制覇】


現在、未だ、拝していない仏像は、5件を残すのみとなりました。
未見の仏像は、

福井 二上観音堂・十一面観音像、愛知 高田寺・薬師如来像、和歌山 東光寺・薬師如来像、和歌山 満福寺・十一面観音像、新潟 宝伝寺・十一面観音像

の5件です。

こんなマニアックな仏像を、よくこれだけ訪ねてきたものだと、思います。
ここまでくれば、こだわりも、もう意地のようになってきた感じです。

是非とも、「井上正・古密教彫像シリーズの完全制覇」を、何とか果たしたいものだと念じています。



【「観仏日々帖」で、これまでご紹介の、「井上正・古密教彫像」たち】


これまでに、私がこれまで訪れた、これら古密教彫像のうちのいくつかは、この「観仏日々帖」で、紹介させていただきました。

次のとおりです。

【古仏探訪】京都・勝光寺 聖観音立像 (2012.6.22)

【古仏探訪】兵庫・多可郡 楊柳寺 楊柳観音・十一面観音像 (その1)  (その2) (2013.1.12~25)

【古仏探訪】秋田県大仙市 小沼神社・観音菩薩像 (その1)  (その2)  (2013.9.7~21)

【古仏探訪】秋田県湯沢市 談山神社、土沢神社の観音像 (2013.10.5)

【古仏探訪】滋賀県高島市・保福寺の釈迦如来坐像 (2014.4.19)

【古仏探訪】「右京区嵯峨樒原高見町・般若寺の十一面観音像」京のかくれ仏探訪②> (2016.6.18)

【古仏探訪】「北区大森東町・安楽寺の薬師如来像ほか諸像」京のかくれ仏探訪④ (2016.7.16)

【古仏探訪】「右京区嵯峨清滝月ノ輪町・月輪寺の千手観音像ほか諸仏」京のかくれ仏探訪⑥ (2016.8.19)

【古仏探訪】回想の地方仏探訪⑥ 「三重 観菩提寺」 (2018.6.9)

【古仏探訪】回想の地方仏探訪⑦ 「大阪 孝恩寺」 (2018.6.23)


ご覧いただけると、井上正氏の云う古密教彫像が、

「尋常ならざる精神性を発する、霊威表現の仏像」であること
「アクが強く、クセがある」ものの、不可思議な魅力で、人を強く惹き付けるものがあること

が、お判りいただけるのではないかと思います。

ご紹介した中でも、とりわけ、

京都・勝光寺の聖観音像の、「妖しい目力(めぢから)で、射すくめるような面相」

京都 勝光寺・聖観音像
京都 勝光寺・聖観音像

兵庫・楊柳寺の楊柳観音像の「古拙で不可思議で、神秘的な存在感」、十一面観音像の「唇から漲る“気”を吐き付けるような迫力」

兵庫 楊柳寺・楊柳観音像兵庫 楊柳寺・十一面観音像
兵庫 楊柳寺・楊柳観音像(左)、十一面観音像(右)

京都・安楽寺の薬師如来像の「ごっつい木塊が迫ってきてたじろぐような凄み」

京都 安楽寺・薬師如来像
京都 安楽寺・薬師如来像

には、それぞれ強烈なインパクトを感じました。

忘れ得ぬものがあります。



【最も「心洗われる」感動~忘れ得ぬ、秋田・小沼神社】


そして、最も心に深く残っているのは、秋田大仙市の小沼神社・聖観音像を訪ねた時の思い出です。
井上正氏の「古仏への視点」の最後に紹介されている仏像です。

訪ねたのは、5年前、2013年の七夕の日のことでした。

実は、観音像が祀られる小沼神社のたたずまいに心撃たれたのです。
緑に包まれた小沼のほとりに、ポツリと佇む小沼神社の景観を観て、

「心洗われる」「心揺さぶられる」

そんな気持ちが、こみ上げてきたのです。

秋田 小沼神社と小沼の風景
心揺さぶられた小沼と小沼神社の景観

鬱蒼とした森の中、突然眼前に開けた空間が出現し、そこには緑色の小沼が水をたたえています
沼の向こう側には、小さな社殿がひとつ、ポツリと静かに佇んでいます。

秋田 小沼神社と小沼の風景
小沼のほとりにポツリと静かに佇む小沼神社

そして、社殿には霊的空気感のある聖観音像が祀られています。

秋田 小沼神社・聖観音像、十一面観音像
小沼神社の社殿に祀られる聖観音像、十一面観音像

「神仙境、幽玄境」という言葉が、そのまま当てはまりそうな霊境空間そのものでした。

仏像そのものというよりは、祀られる社殿の景観、佇まいに感激したのですが、十数年間の地方仏探訪の数々の中でも、一番心撃たれたといっても過言ではありません。

もう一度、あの

「緑濃い水をたたえた小沼、沼のほとりにひっそり佇む社殿、そこに祀られる2体の観音像」

に再会したくて、昨年(2017年)、秋田の遠い田舎まで、また訪れてしまいました。

「もう一度、訪ねてきて本当によかった。」
「これからも、人に知られることなく、訪れる人もなく、あのままの姿で、残っていてほしい」

素直に、そんな気持ちになった、小沼神社再訪でした。

随分マニアックな話になってしまいましたが、私のこだわりの「井上正・古密教彫像を巡る話」を綴らせていただきました。



【年寄りのノスタルジー「回想の地方仏探訪」も、これでおしまいに】


8回にわたって続けてきました「回想の地方仏探訪」シリーズも、これでおしまいにさせていただきたいと思います。

学生時代、初めて東北の地方仏探訪に出かけた話から、50歳代半ばを過ぎてから、長らく縁がなくなっていた地方仏探訪を再開、再び熱中するまでの思い出話を、勝手気ままに綴らせていただきました。

何の面白みもない、若き日から近年までの地方仏体験の話でしたが、個人的には、しみじみと思い出深いものがあります。

唯々、年寄りのノスタルジー、自己満足的な回想話で、飽き飽き、辟易されたのではないかと思います。

我慢してお付き合いいただき、有難うございました。