【夜7時NHKニュースで、「古代朝鮮仏発見?」の報道にビックリ!】
正月気分もまだ明けない1月7日、夜7時のNHKテレビのニュースで、こんなニュースが報道されました。
ニュースの見出しは、
「小さな寺の仏像 実は朝鮮半島伝来の貴重な仏像か」
というテロップです。
【TVニュースでの報道内容は?】
アナウンサーの方は、このように語っていました。
京都市の小さな寺にある、江戸時代のものと思われていた仏像が、実は、仏教が日本に伝来して間もない頃に朝鮮半島で作られた極めて貴重な仏像の可能性が高いことが、大阪大学などによる最新の調査でわかりました。
専門家は
「こうした貴重な文化財は、ほかにも埋もれている可能性がある」
と指摘しています。京都市左京区八瀬近衛町にある「妙傳寺」では、「半跏思惟像」という高さおよそ50センチの青銅製の仏像が本尊として安置されていて、これまでは、寺が建てられたのと同じ江戸時代のものと思われていました。
この仏像について、大阪大学や東京国立博物館の研究者が改めて鑑定したところ、額に刻まれた模様や装飾品の龍のデザインなどが6世紀から7世紀ごろに朝鮮半島で作られた仏像や出土品の特徴と一致していました。
さらに、仏像にX線を当てて金属の成分を詳しく調べた結果、銅がおよそ90%、スズがおよそ10%で鉛はほとんど含まれていませんでした。
こうした割合は日本や中国の仏像にはなく、7世紀ごろに朝鮮半島で作られた仏像である可能性が極めて高いことがわかったということです。
この時代は、日本に仏教が伝わってまもない時期に当たりますが、この仏像がどういう経緯でこの寺に伝わったかはわかっていません。
調査に当たった大阪大学の藤岡穣教授は、
「韓国では国宝級となる最高レベルの仏像で、こうした仏像が見つかったことは大きな意味がある。
ほかにも、埋もれている貴重な文化財がまだまだ見つかる可能性があり、価値に気付かれないまま盗難などの被害に遭う前に、調査が進んでほしい」
と話しています。ほかにも、埋もれている貴重な文化財がまだまだ見つかる可能性があり、価値に気付かれないまま盗難などの被害に遭う前に、調査が進んでほしい」
その後の話を要約すると
古代朝鮮仏と判断される決め手となったのは、非破壊・非接触の「蛍光X線分析」による、金属組成分析の積み重ねの成果であったこと。
仏像は、盗難の恐れがあるため、3Dスキャナーによって模造を制作しこれをお寺に安置、実物は博物館で保管されることになった。
との説明がされていました。
なんと、ゴールデンタイム、NHKの7時のニュースに、5分近くの長い時間を割いて、この仏像の発見ニュースが流されたのです。
ご覧になった方も、たくさんいらっしゃるのではないかと思います。
私は、大阪大学の藤岡穰氏が、1年ほど前に、論文やシンポジウムで、
「この仏像は、模古作といわれていたが、科学的分析等によると古代朝鮮仏であるとみられる。」
という考えを発表されていたことを、たまたま知っていましたので、
「あの話が、TVニュースで、こんなに大きく採り上げられたのか!」
と思いましたが、採り上げ方の大きさにビックリしてしまいました。
【新聞各紙も、X線分析で「7世紀の渡来仏発見か?」と、大きく報道】
このNHKニュースから1週間ほど後、今度は、新聞各紙が、記事に大きく採り上げて、一斉に報道されました。
このような見出しでした。
「7世紀に朝鮮半島で制作か 京都・妙伝寺の仏像、X線で成分分析」 (産経新聞)
「本尊は国宝級渡来仏…7世紀に朝鮮半島で製作か」 (毎日新聞)
「『江戸期』実は7世紀の渡来仏? 京都の半跏思惟像X線分析」 (朝日新聞)
朝日新聞の記事をご紹介すると、次のようなものです。
![]() |
妙傳寺・半跏像の発見を伝える朝日新聞記事 |
この時代の渡来仏は全国的にも数が少ないといい、
「装飾も精巧で、朝鮮半島から伝来したものだろう。貴重な仏像だ」
と話している。藤岡教授の鑑定によると、仏像の額に水平に刻まれた毛筋や装飾品の竜のデザインなどが、6~7世紀ごろに朝鮮半島で作られた仏像の特徴とよく似ていたという。
また、仏像にX線を当てて金属の成分を調べる「蛍光X線分析」では、銅が約86%、錫が約10%だった。日本や中国の仏像に比べて錫が多い組成から、7世紀ごろ朝鮮半島で制作された可能性が高いとみている。
蛍光X線分析には従来、大型機器が必要だったが、藤岡教授らはヘアドライヤーほどの大きさまで小型化。
これまでに日本国内や中国、韓国などの古い仏像約400体を調査した。
妙伝寺は寺伝によれば、江戸初期の1616年創建。
そのため、この仏像もこの頃の制作と考えられていた。
今回の調査結果を受け、3Dプリンターで仏像のレプリカを制作。
実物は博物館に寄託し、レプリカを寺に安置するという。
寺は天皇の大礼や大喪の時などに輿を担いだ八瀬童子の菩提寺として知られる。
(朝日新聞、1月14日付け朝刊)
新聞各紙にこれほど大きな記事で報道されて、またまたビックリです。
仏像愛好の方々の間では、しばらく、この話題で盛り上がるのかなという感じです。
金銅仏は、博物館に預けられるという話ですが、大津市歴史博物館で保管されるようで、10月7日~11月19日に、同博物館で展示されるということです。
皆さん、この金銅仏の写真をご覧になって、どのように感じられたでしょうか?
「江戸時代の模古作? 7世紀の古代朝鮮仏?」
如何でしょうか?
【一昨年、展示会に出展され、シンポジウムで研究成果が発表されていた、妙傳寺・半跏思惟像】
実は、この妙傳寺の金銅仏は、一昨年、2015年10~12月に、大阪大学総合学術博物館で開催された
企画展「金銅仏きらきらし―いにしえの技にせまる―」
に展示されました。また、同時に開催された
「国際シンポジウム~金銅仏の制作技法の謎にせまる」
における、藤岡穣氏の講演「東アジア金銅仏の蛍光X線分析からわかること」で採り上げられ、「7世紀の古代朝鮮金銅仏であると考えられる」
という説明が、なされていました。
その研究成果が、今般、大々的にマスコミ発表されたということなのだと思います。
私は、この展覧会とシンポジウムに興味がありましたので、丁度関西へ行くタイミングを合わせて、出かけてみました。
その時に、この金銅仏の実物を、眼近に観たのですが、素人には、
「模古作、古代朝鮮仏?何とも、よくわからない! どちらと云われても、そうなのかな?」
というのが、正直な実感でした。
【近年、金銅仏の金属組成調査に目覚ましい成果を生んでいる、蛍光X線分析】
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藤岡穰氏 |
これまでに日本国内や中国、韓国など仏像、約400体を調査したそうです。
蛍光X線分析というのは、非破壊、非接触で、対象物の素材の元素組成を測定分析する方法です。
対象物にX線を照射、そこから発生する蛍光X線を測定し、対象物がどの元素で構成されているかを分析するもので、近年、測定機器装置が格段に進歩し、金銅仏調査などにめざましい成果を生んでいるものです。
藤岡氏は、金銅仏の時代様式、形式からの研究に加えて、金属組成分析結果のアプローチからの研究を、併せて行うことによって、新たな視点で制作年代の判定などを論じられています。
私には、科学的分析云々などということは、難し過ぎて、全くわからないのですが、藤岡氏等により、従来、模古作と考えられていた金銅仏が、古い時代に遡るものと考えられるなどの研究成果が、いくつか発表されていますので、シンポジウムでの講演内容なども含めて、ちょっとだけご紹介しておきたいと思います。
金銅仏の金属組成ですが、銅の他には、主として錫、鉛が含まれるそうです。
他にも、鉄、亜鉛、ヒ素も含まれる場合があるそうです。
シンポジウムでの講演では、時代別また日本、韓国、中国では、ご覧のような特徴があるとのことでした。
【妙傳寺像が朝鮮古代金銅仏と判断されたポイント】
マスコミで報道された、妙傳寺の半跏像は、銅が約90%、錫が約10%の組成となっています。
藤岡氏は、妙傳寺の如意輪観音半跏像について、このように述べています。
「さまざまな金銅仏について蛍光X線分析を実施したところ、日本の飛鳥時代の作例の場合は原則的に錫の合有率が低く、また、奈良時代以降は次第に鉛の含有率が増加する傾向があることがわかつてきた。
そうした原則ないし傾向に照らすならば、本像の青銅には1割程度の錫が含まれることから飛鳥時代のものとは考えられず、また鉛をほとんど含まないとから平安後期以降の制作になる蓋然性も低いと思われる。
また、朝鮮三国の金銅仏にも本像のように薄手で像内がやや荒れた作例が見出されることは前述のとおりである。
そして、そうであるならば、特徴的な細部形式にいずれも中国や朝鮮半島の作例との類似が認められ、逆にそれがほとんど日本の作例にはみられないことを顧慮すれば、日本の中近世における模像、復古像となるよりも、やはり素直に渡来仏とみるべきであろう。」
この文章は、
「京都某寺と兵庫・慶雲寺の半枷思惟像」(藤岡穰) 美術フォーラム21第32号2015.11.30
という論文で、述べられているものです。
京都某寺というのは、妙傳寺のことです。
論文と展示会では、盗難リスクへの配慮からか「某寺」と表示されていました。
今般、「妙傳寺」であることが、明らかになったものです。
本論文では、単に、金属組成分析の観点だけではなく、詳細な様式、形式の検討の上、
「百済以来の伝統を色濃く伝えた新羅造像である蓋然性が高い」
と述べられています。
【続々と、新たな研究成果が発表されている、金銅仏の蛍光X線分析】
また、この論文では、鎌倉以降の擬古作とか、真贋についての議論もあった、兵庫・慶雲寺の半跏思惟像も、その金属組成、様式等から、朝鮮三国時代、7世紀以降の制作の可能性について論ぜられています。
この他にも、近年の、藤岡氏による金銅仏の蛍光X線分析による、新たな研究の見方を、いくつかご紹介すると、次のようなものがあります。
これまで平安~鎌倉時代以降の模古作とみられていた、安養寺の金銅仏・如来立像については、
その組成が純銅に近いことなどから、
「大阪大学の藤岡穣教授が蛍光X線分析を行ったところ、素材については、白鳳時代から天平時代に制作されたと考えて矛盾が無い。」
(「カミとほとけの姿展・図録解説」岡山県立博物館2016.10)
との見方がなされています。
近代の擬古作の疑いがあるという疑問が出された、野中寺の弥勒菩薩半跏像については、
その金属組成(銅:90%、錫3%、鉛をほとんど含まない)からも、日本の古代金銅仏として許容範囲にある(「野中寺弥勒像について~蛍光X線分析調査を踏まえて」ミューゼアム649号2014.4)と述べられています。
殆どが鎌倉時代以降の補作で、当初部分がごくわずかしか残されていないとされている飛鳥大仏についても、
顔面部分のほとんどは7世紀造立当初のものと見られるとの調査結果を発表し、新聞記事に大きく採り上げられたりしました。
このように、蛍光X線分析による、金銅仏の金属組成の科学的分析の研究は、金銅仏の制作年代判定に、従来の見方を大きく覆す、新たな視点を提供しているようです。
科学的分析結果を横に置いておいて、これらの仏像の姿を観た感じの私の印象についていえば、妙傳寺の半跏思惟像、慶雲寺の半跏思惟像、安養寺の如来立像などのフィーリングは、平安鎌倉以降の模古的、擬古的な像と云われると、正直な処そのように感じるというのも本音です。
「7世紀前後の制作」といわれると、うまく説明はできないのですが、微妙にしっくりこない感じもしないわけではありません。
なんとなく、既成概念にとらわれた見方になってしまっているということなのでしょうか?
科学的分析の研究が一層進展すれば、従来の常識が、大きく覆されるようなビックリの研究成果が、これからいろいろ判明していくのかもしれません。
マスコミに大きく採り上げられた「妙傳寺の半跏思惟像は、古代朝鮮仏」という話を、ご紹介しつつ、最近の蛍光X線分析による科学的調査研究などについてふれてみようと思って書き始めたのですが、
何ともとりとめのない支離滅裂な話になってしまいました。
自分でも、何を書いているのか、訳が分からなくなってしまったというのが実感ですが、「新発見の古代朝鮮仏の紹介記事」ということで、お赦しいただければと思います。