観仏日々帖

新刊旧刊案内~「日本仏像史講義」山本勉著・・日本彫刻史の旧刊を振返る【2015.7.11】


今回もまた、仏像関係書のご紹介です。

山本勉氏著の「日本仏像史講義」が、新書版になって5月に出版されました。


「日本仏像史講義」 山本勉著
2015年5月 平凡社新書 【215P】 860円


山本勉著「日本仏像史講義」


皆さんご存じと思いますが、この「日本仏像史講義」は、「別冊太陽」というムック本シリーズの一冊として、2年前の2013年3月に刊行されています。
今般の、新書版「日本仏像史講義」は、この別冊太陽版に加筆修正を加えて、ハンディーな廉価版として出版されたものです。

別冊太陽版は、美麗なカラー写真満載で愉しめるのですが、3800円と高価なのと、大判で持ち歩くのには難儀という処がありました。
今回の新書版は、860円と廉価で、ポケットに入るハンディーなものになりました。

別冊太陽版「日本仏像史講義」

別冊太陽版「日本仏像史講義」の掲載写真
別冊太陽版「日本仏像史講義」の掲載写真
美麗なカラー写真満載の別冊太陽版「日本仏像史講義」


【読み応えのある仏像彫刻通史】

「日本仏像史講義」という題名のとおり、所謂仏像ガイド、仏像手引きという案内書とは一味違う、仏像愛好者にとって、読みごたえが十分ある内容になっています。

仏像が好きになるスタートの頃には、〈古寺古仏巡礼〉とか〈仏像の美しさを訪ねて〉とかいう書名の本を読んで、仏像に親しみ始めた方が多いのではないかと思います。
私自身も、仏像を観はじめたとき、最初に手にしたのは和辻哲郎著「古寺巡礼」、亀井勝一郎「大和古寺風物誌」などでした。

もう一段、仏像好きになってくると、仏像の歴史や造形などについて、もっと深く知りたいという興味関心が湧き上がってくるのではないかと思います。
そうすると、旅行記的な本、随想的な本では、物足りなくなってきて、仏像についての知的興味を充たしてくれる本が、読みたくなってくるのではないかなと思います。

私も、仏像の歴史といったものをしっかり知りたいと思うようになり、〈日本仏教美術史云々〉といった標題の本を、読んでみるようになりました。
ただ、この手の本は、学校の教科書そのものという感じで、単調というか平板というか、読んでいると「眠り誘う薬」で、すぐに飽きてしまった記憶があります。

本書「日本仏像史講義」は、仏像彫刻通史なのですが、結構面白く愉しく読めるのです。
新書版なのですが、各時代の仏像彫刻の特性とポイント、研究上の課題、論点などが、コンパクトに凝縮して盛り込まれています。

随想本や一般的概説書では物足りなくなった仏像愛好者の、知的興味をくすぐり充たしてくれる、格好の仏像史概説書だと思います。


【本書の内容~サワリのご紹介】

目次をご覧ください。

「日本仏像史講義」目次1

「日本仏像史講義」目次2


目次だけでは、中身が想像つかないのかと思いますので、少しだけ、本文のさわりをご紹介しましょう。

法隆寺再建と金堂釈迦三尊の項の、本文のさわりです。

飛鳥寺に次いで古い本格的伽藍であったと考えられるが、『日本書紀』によれば、この斑鳩寺の伽藍は天智9年(670)に一宇残さず焼失した。

これが昭和14年(1939) に発掘された、いわゆる若草伽藍跡にあたる。
若草伽藍は現在の金堂・五重塔・中門・回廊からなる西院伽藍の東南に接し、両者はわずかに敷地が重なっている可能性も指摘されている。

若草伽藍の発掘後、現西院伽藍は天智九年の火災後の造営と考える、いわゆる法隆寺再建論が一般的となったが、近年の年輪年代測定によれば、金堂に使用されている材木は火災前に伐採されたものであることがわかり、以前から一都にあった、火災前に新伽藍の造営が開始されていたとする新再建論の蓋然性が浮上した。

新伽藍造営の契機としては、皇極2年(643)の蘇我入鹿による斑鳩宮焼き討ちとのかかわりも想定されている。
しかし、敷地の重なる二つの伽藍の併存した可能性はやはり認められないとする意見も再提唱され、さらに議論は続いている。

いずれにせよ、法隆寺にはそれらの火災をさかのぼる7世紀半ば以前の仏像が伝えられ、これらの像の旧所在の問題など、仏像そのものの検証も、その議論にはふくまれるべきであろう。



(注記:金堂釈迦三尊の制作年代を光背銘文通りと考えることについて)

文献史学の立場からは、聖徳太子の実在をめぐる議論ともからめて、この銘記の内容の信憑性ひいては像の製作年代について疑義を呈する向きも一部にあるようだが、銘記が造像時に刻まれたことについては詳細な調査報告があり、美術史の立場からは、この像が銘記の示す推古31年(623) に製作されたことは、ほぼゆるぎなく認められている。

釈迦像について「尺寸王身」つまり聖徳太子と等身に造ると記しているのは、聖徳太子の神聖化の、そして太子と仏像史のかかわりの原点としても注目されるところであるが、亡者と等身の仏像を造るという行為は、おそらく中国の慣習から学んだもので、仏像に亡者の姿を重ねて思慕しようという意図にもとづいている。
この観念は以後の日本仏像史にもしばしばあらわれる。

なお、ここに名が明記されながらも作者止利仏師の実像が判然としないのは、飛鳥寺本尊についてのべたのと同様である。



薬師寺金堂三尊像の制作年代論の、本文のさわりです。

薬師寺金堂の本尊である薬師三尊像が日本の、ひいては東アジアの古代彫刻の最高峰に位置する作品であることは異論のないところであるが、藤原京薬師寺(本薬師寺)創建時の本尊が移坐されたとする説(移坐説)と、平城京移転後の薬師寺であらたに製作されたとする説(新鋳説)との論争があり、いまも解決していない。

前者であればその製作時代は飛鳥時代となり、後者であれば奈良時代ということになる。

藤原京における創建時本尊の完成を史料のどの時点にもとめるかについても諸説があるが、これを薬師寺で無遮大会の開かれた持続2年(688)以前とした場合、中尊薬師如来橡と、同じ丈六像である天武14年(685)開眼の山田寺像すなわち興福寺仏頭との作風の差はあまりに大きすぎることから、現薬師寺金堂本尊を創建時本尊とみることは困難であるとする説には説得力がある。
鋳造技法の調査でも薬師如来像に格段に発展した技法がみられることが指摘されている。

ただし、創建時本尊の完成は近年の研究における史料解釈によって、皇后時代の持統天皇の病のために天武天皇が発願した仏像が公卿百寮によって完成したという持続十一年であるとする説が再浮上しており(望月望「藤原京薬師寺本尊の造立年」〔東北大学大学院文学研究科美術史学講座『美術史学』31・32〕2011年)、それが現本尊の製作年代論争に影響をおよぼす可能性がある。

ともあれ現段階では、依然有力な新鋳説をとり、薬師寺移転が史料にみえる養老2年(718)頃の製作とするのか穏当であろう。


引用が、かなり長くなってしまいましたが、この本の内容をイメージいただけるのではないかと思います。

如何でしょうか?

仏像愛好者の知的興味をくすぐる、かなり読み応えのあるものだと思います。
新書版の概説とはいうものの、これまでの論点、最新の学説のエッセンスも凝縮して取り込んだものになっています。
ただ、こうした論点が存在することを初めて知る人にとっては、説明がコンパクトに凝縮され過ぎていて、ちょっと判りにくいかもしれません。
論点の大筋を御存じの方は、うんうんと頷きながら、新たな知見に興味を抱きながら、面白く読めるのではないでしょうか。


【新書版では大幅加筆~新研究成果も盛り込み】

ついでの話ですが、新書版では、「別冊太陽版から大幅に加筆された」と書かれていました。どんな処かなと照らし合わせてみましたら、結構加筆変更されていて、そのとおりでした。

新書版では、近年の諸説の出典論文が数多く明記されるようになっています。
また、別冊太陽版ではふれられなかった新たな研究成果が、しっかりと取り込んで説明されています。

新たな研究成果説明が、追加された処を、一つ二つご紹介しましょう。

飛鳥大仏の項では、

最近の科学的調査を踏まえ、現状の木や石による後補部分、塑土による後補部分以外の銅造部分に当初の造形をみるべきであるとする見解があるが(櫻庭裕介「飛鳥寺本尊丈六釈迦如来像について」〔早稲田大学文学研究科奈良美術研究所『奈良美術研究』14〕2013年)疑問である。

奈良時代の塑像・乾漆像の項では、

平安後期に「橘夫人」の病気平癒の由緒が語られた法隆寺西円堂の丈六薬師如来坐像は、「橘夫人」を橘美千代にあて興福寺西金堂諸像の周辺の作とみる説もあったが、最近は「橘夫人」を聖武天皇夫人の橘古那可智(~759)とみて天平勝宝7年(755)の聖武天皇不予に際して彼女が発願し、翌年の聖武崩御に完成して彼女の病気平癒の願意が加わったものかとする説がある。(中野聰「法隆寺上代彫像機能論」〔『機能論―つくる・つかう・つたえる』〈『仏教美術論集』5〉所収〕2014年竹林舎)

このような新たな研究成果のコメントが、加筆されています。

別冊太陽版をお持ちの方も、新書版を新たに買ってみる値打ちは、あるかもしれません。


【本書の執筆主旨など・・・・】

著者、山本勉氏は、本書を執筆することになった経緯や、趣旨について、「あとがき」で、このように語っています。

山本勉氏
山本勉氏
「多くの研究者の研究成果によって明らかにされてきた基本的な事実や、現在の研究状況の解説に終始している内容からすれば、『日本仏像史講義』というタイトルはややおこがましいものであったかもしれないが、なるべく平易な論述を心かけ、仏像史の流れはつかみやすくしたつもりだ。
大学の専門課程の講義というより、教養課程の講義、あるいは一般市民向けのカルチャーセンターの講義とでも思っていただければさいわいである。」


(注記:一般読者に好評をもってむかえられたことに関して)
「学生時代以来の恩師水野敬三郎から『読みやすい』とのコメントをえて(私信。もちろんこの評には『内容は薄いが』とのふくみがあると思うが)・・・・・・・・かすかに安堵した。
『日本仏像史講義』に著者がこめた、一人の専門家による一定の視座をもった通史に、なるべくあたらしい情報を盛りこんで、初学者や一般読者に提供したいという意図はそれなりに評価されたようだ。」


この山本氏のあとがきコメントは、本書の特長を、見事に言い表わしていると思います。
ちょっと読み応えのある仏像史概説書にご関心のある仏像愛好者にとっては、必読必携の一書ではないでしょうか。
是非、一読をお薦めします。


【仏像彫刻通史の旧刊本あれこれ・ご紹介】

ここで、ついでにという訳でもないのですが、これまでに発刊された、日本仏像史とか仏教彫刻史について解説された「通史的概説書」のなかで、それなりの「読み応え」がある本を、ご紹介してみたいと思います。

私が、これまでに読んだ「仏教彫刻史概説書」のなかから、この本は一度読んでみると面白い、興味深い、と感じたものです。

・いわゆる仏像案内とか仏像の歴史入門というものではなく、仏教彫刻史についてしっかり論じられているもの。
・単調淡々とした記述で、読み疲れてしまうものではなく、仏像愛好者の知的興味をくすぐる、読んで面白い本。

をピックアップしてみました。


まずは、ちょっと古いところで、戦前に書かれた本です。(出版は戦後すぐ)


「日本彫刻史要」 金森遵著  1948年 高桐書院刊  【221P】 170円

金森遵著「日本彫刻史要」


この本は、若くして戦死した美術史研究者、金森遵氏が、戦前の雑誌「国宝」に「日本彫刻史考」と題して連載した旧稿を単行本化した本です。
彫刻史の概説書というのはちょっと当たらないのかもしれませんが、なかなか興味深い本なのでご紹介しました。

目次は、ご覧のとおりです。

「日本彫刻史要」目次

目次の文言からも、ご想像がつくと思いますが、彫刻史の概説というのはあたらず、日本彫刻史における各時代の問題点、課題などを論じた論考、自説の開陳という内容になっています。
基本的な仏像彫刻知識を前提として、所論が論じられていますので、ちょっとなじみにくいかもしれません。
しかしながら、金森氏独自の「日本彫刻史の視点、考え方」が大胆に、思い切って論じられていて、ご関心のある方には、大変興味深く読めると思います。

例えば、「白鳳様式の可能性」の章では、「白鳳時代」について、このように論ぜられています。

此の如く見れば、白鳳時代を我国美術史~少なくとも彫刻史~の上で独立させるということは、様式的には全然根拠ないことが知られるのである。
そしてその前半は飛鳥時代の延長であるし、後半は奈良様式の萌芽期にあたるのであって、それ自体には一連の過渡としての意味すらも見出されないようである。
従って「白鳳」という美称に執着して、白鳳時代を残置せしめることは、「白鳳彫刻」の実に即せぬ空論としてしか考えられない。

大胆な議論が、舌鋒鋭く論ぜられていると、感じられることと思います。

金森氏、37~8歳ごろの執筆です。

金森氏は、東大大学院卒業後、東京・奈良の帝室博物館で彫刻史の研究に務めましたが、
「日本彫刻史を専攻する少壮学者として将来を嘱目され、その鋭い論文は識者の注目するところであつた」
研究者だそうです。

40歳で、フィリピン戦線にて戦死しますが、存命ならば、金森氏の鋭く大胆な彫刻史論が展開されたに違いなく、残念なことです。



「飛鳥・白鳳・天平の美術」 野間清六著 1966年 至文堂刊 800円

野間清六著「飛鳥・白鳳・天平の美術」

これもちょっと古い本ですが、皆さんおなじみの「日本歴史新書」の一冊として刊行されました。
仏像彫刻史の通史ではなく「飛鳥・白鳳・天平」という時代に限られて論ぜられていますが、読み応えある面白い本だと思いましたので、ご紹介しました。
私は、学生時代に、大変惹き付けられ、一気呵成に読み終えた思い出があります。

著者、野間清六氏は、本書の「まえがき」で、このように語っています。

「年輪を重ねれば、人それぞれの人生観が出来るように、私なりの上代美術観が何とか固まりかけたので、一応ここにまとめてみることにした。

本書のなかで、私が企図した点を挙げると、まず、
第一は、白鳳という時代を高くみて、大きく扱ったことである。
これは今まで飛鳥時代のものと思われていたものが、殆ど白鳳時代のものと考えられ、白鳳時代には大きく扱われるに値する、芸術的な高さが十分あると思ったからである。
第二は、作品に宿る造形感覚を追求して、その展開のあとを考えてみたことである。
これは美術の研究において一番大切なことだが、案外従来の美術書が軽視していたからであった。
・・・・・後略・・・・・・」

金森氏の「日本彫刻史要」とは正反対に、白鳳時代を一つの重要な時代様式として大きく評価し、「自由美、軽快美、リリカルな情趣性」を、白鳳の特色としました。

「飛鳥・白鳳・天平の美術」目次の一部
「飛鳥・白鳳・天平の美術」目次の一部

飛鳥白鳳時代の処の目次をご覧いただければ、ご想像がつくと思いますが、
野間氏は、百済観音、夢殿・救世観音、中宮寺・弥勒菩薩を、白鳳時代の制作と論じています。
当時は、中々大胆な発想だったのだと思いますが、その論点、視点には惹かれるものを感じてしまいました。

金森氏の「日本彫刻史要」と併せて読まれれば、興味深いことと思います。



「日本古代彫刻史概説」 町田甲一著 1974年 中央公論美術出版刊 【149P】 1700円

「日本古代彫刻史概説」 町田甲一著

町田甲一氏の名前は、仏教美術史に関心のある方で知らない人はいないのではないかと思います。
1993年、76才で亡くなりましたが、それまで日本彫刻史研究の第一人者として、また奈良六大寺大観の刊行を実現した編集委員代表として、多大な業績を残した著名な研究者です。

本書、「日本古代彫刻史概説」は、飛鳥時代から平安前期に至るまでの仏像彫刻の歴史を、「美術様式の展開」という視点から、町田氏の所論を論じた本です。
「概説」と題するには、少々専門的内容のような感じですが、判りやすく平明に記されています。

東京文化財研究所WEBサイトの物故者紹介によると、
町田甲一氏の業績などについて、このように記されています。

「町田は、生涯一貫して、芸術としての仏像の追究に情熱を注ぎ続けた。
その方法論は、リーグル、ヴォリンガー、あるいはヴェルフリンの理論に基づく自律的様式史観を前提としており、それを日本古代彫刻の様式区分論として展開させた一連の論考をあらわした。(「上代彫刻史上における様式時期区分の問題」〈『仏教芸術』38〉他)

町田氏は、飛鳥から平安初期にかけての仏像彫刻史を、
静視的・二次元的視覚活動から、触知的・三次元的視覚活動による写実、古典的理想美への展開、そして反古典バロック的表現へ
という、美術様式展開の中でとらえました。

本書は、ここでいう「町田氏の日本古代彫刻の様式発展論、区分論」を、まとめて概説した本といえるものでしょう。

町田氏は、本書「あとがき」で、このように述べています。

われわれの眼前に遺存する個々の作品を、まず芸術的に理解し、その様式の由来するところ、影響するところを明らかならしめるのが「美術史」という学問であるならば、個々の具体的作品の精緻なる研究を基礎としなければならないこと、いうまでもないことながら、その様式の歴史的展開、歴史的変容を追求して、その史的因果の関係を明らかならしめることを忘れてはならない筈である。

しかるに近時発表される美術史学上の多くの研究は、個々の作品についての研究が精緻になればなるほど、個々の作品の相互の間の問題や、その作品とその時代の美術全体との連関などについて、或いは一時代を限ってその時代の様式の変容などについて、論ずるところが、ひところに比べて、ますます少なくなってきているように思われる。

町田氏は、このような考えのもとに、「一時期の彫刻様式の展開について、私見をまとめようと」本書を執筆したとしています。

私は、町田氏の書かれた本を読んで、大変に惹かれるものを感じ、その著作を読みまくったことがありました。
一時期、「町田かぶれ」とでもいって良いようなものだったのかもしれません。
町田氏の著作のおかげで、仏像彫刻への興味関心が、大きく深まったような気がします。


「日本彫刻史論~様式の史的展開~」 中野忠明著 1978年 木耳社刊 【285P】 1600円

「日本彫刻史論~様式の史的展開~」 中野忠明著

本書は、中野忠明氏が、古美術研究誌「史迹と美術」に掲載した、日本彫刻史の各時代について論じた論文を再編集したものです。

中野氏は、あとがきで、このように記しています。

「著者が意図したのは、様式史としての彫刻史の追及であり、文化史的関連よりも、芸術作品の造型そのものの性質から、歴史を理解しようとした。
木耳社の企画も、このような在来の彫刻史の本とは毛色の違う、型破りの書物を世に紹介しようというお考えであろう。」

中野氏は、飛鳥から鎌倉に至る彫刻史の考え方のエッセンスを、このように述べています。

「日本仏像形成の歴史は、われわれの民族の美的本質がいかなるものであるかを顕示するものである。
仏像は古代において聖的崇高の美にかがやき、世界に対する知的観念を顕示したが、藤原仏は装飾的耽美の世界へ人々を迎摂している。
そして鎌倉以後は、世俗的芸術との抱合によって、仏像は高度な精神性を失った。」

このフレーズを読んで、共感されるか、そうではないのかは、それぞれかと思います。

ここに、本書の目次の詳細をご覧にいれておきます。

「日本彫刻史論~様式の史的展開~」目次

小さな字で読みづらいでしょうが、本書の論ずるところをイメージいただくことはできるのかと思います。



「仏像の歴史~飛鳥時代から江戸時代まで~」 久野健著 1987年 山川出版社刊 【220P】 1500円

「飛鳥白鳳天平仏」 久野健著 1984年 法蔵館刊 1600円

「仏像の歴史~飛鳥時代から江戸時代まで~」 久野健著.「飛鳥白鳳天平仏」 久野健著 

久野健氏の名前については、町田甲一氏と並んで、日本彫刻史研究の一時代を築いた著名な研究者として、皆さん、ご存じのとおりだと思います。

東京文化財研究所WEBサイトの物故者紹介は、久野氏の業績をこのように紹介しています。

久野の研究が戦後日本の仏教彫刻史を牽引したことは衆目の認めるところである。
ことに長く在籍した美術研究所から東京国立文化財研究所時代の研究では、仏像のX線透過撮影を推し進めるとともに、その成果を踏まえながら卓抜した彫刻史のビジョンを示した。

すなわち、『日本霊異記』の記述と照らし合わせて平安初期の木彫像の発生およびその支持推進が民間の私度僧による造像にあったことを提唱し、この学説は多少の修正は加えられながらも今日でも支持されている。

また、都鄙を問わず現地での調査研究を行ったことも研究の特色であり、・・・・・・・『平安初期彫刻史の研究』(吉川弘文館、1974年)といった大著として結実している。


「仏像の歴史~飛鳥時代から江戸時代まで~」 の方は、仏教の伝来から円空・木喰仏までをまとめた仏像彫刻の通史を、大変わかりやすく、平易に解説した本です。。
仏像の源流や系譜,作者,制作法,特徴や見方,各時代の比較,造像の儀式や手順などについて、エピソードを豊富におりまぜながら語られています。

本書のまえがきによれば、
「私(久野健)が各地で行った講演や講義のテープをもとにして、それに手を加え、仏像の通史をまとめてみたいと考え、出来たのが本書である。
そのため、出来るだけ講義のさいの話の流れを生かすように口語体にした。」
と述べられています。

仏像彫刻の歴史や論点が、やさしい語り口で記されており、読みやすさでは一番かもしれません。


「飛鳥白鳳天平仏」の方は、飛鳥~天平彫刻史についての概説と久野氏の所論をまとめたものです。

本書は、1980年から一年間、東京大学文学部で「日本古代彫刻史の諸問題」というテーマで講義した内容を一書にしたものだそうです。
この講義が、久野氏にとって東大での最後の講義になることから、記念のためにとられた録音テープをもとにして、加筆されました。

読みやすい文章ですが、それぞれの仏像、時代様式などについての久野氏の所論が、しっかりと述べられています。



「日本彫刻史概説・飛鳥~鎌倉時代」 水野敬三郎著 1996年 私家版 【50P】

「日本彫刻史概説・飛鳥~鎌倉時代」 水野敬三郎著

この本は、私家版で市販されていないのですが、ご紹介しておきます。
水野敬三郎氏が、講談社刊「日本美術全集」(全24巻)の、各時代の仏像彫刻の巻に概説を執筆したものを抜き刷り再録し、一書にまとめたものです。

日本美術全集の、第2巻、第4巻、第6巻、第10巻に
「飛鳥時代の彫刻」「奈良時代の彫刻」「平安前期の彫刻」「平安後期の彫刻」「鎌倉時代の彫刻」
という表題で、掲載されました。

この概説は、筆者の自説、所論に偏ることなく、各時代の主要仏像、仏像彫刻史の流れ、論点などについて、目配せが行き届いて解説されています。
長文ではありませんが、よく凝縮された密度の濃い彫刻史概説だと思います。
今回、冒頭でご紹介した、山本勉氏著の「日本仏像史講義」と、同じタイプの概説書といって良いのではないでしょうか。

写真でご紹介したのは、私家版なので、入手しにくいかもしれませんが、図書館などで、講談社版「日本美術全集」の当該巻の、水野氏執筆概説の処をピックアップしていただければ、通史としてお読みいただけると思います。



「日本仏像史」 水野敬三郎監修 2001年 美術出版社刊 【220P】 2500円

「日本仏像史」 水野敬三郎監修

本書は、美術出版社から、「カラー版 ○○史」という題名を冠して、15冊以上出版されている、美術工芸関係の歴史概説シリーズの一冊として刊行された本です。
「日本仏像史」のほかに「日本美術史」「東洋美術史」「日本建築様式史」等々といった本を書店でご覧になったことがあるのではないかと思います。

この「日本仏像史」は、日本仏像彫刻通史の解説本の「定本」といっても良い本なのではないかと思います。
仏像彫刻史のあらゆる分野に、目配せが行き届いていて、それぞれについてきちっと濃淡、過不足なく、学術レベルで解説されています。

監修者の水野敬三郎氏は、本書の「はじめに」で、このように記しています。

「日本の仏像の歴史は、これまでも美術史の概説や美術全集の中で項目として述べられてきたが、通史として一冊にまとめられた本は意外に少ない、というよりほとんどなかったといった方がよいかもしれない。
この本では、古代から近代にいたる各時代の仏像の歴史を、専門の研究家が分担して執筆した。
・・・・・・・・
今回は、その時代の彫刻史研究に道を切り開き、新たな展望を与えつつある方々に執筆をお願いした。
近代にいたるまでの、充実した仏像通史になったと思う。」

浅井和春、松田誠一郎、副島弘道、武笠朗、奥健夫、山本勉、藤岡穣、根立研介、鈴木喜博の各氏をはじめ、17名の研究者による共同執筆となっています。


本書の特長について、NET〈Amazon〉の商品説明では、

仏教伝来から現代まで、1500年余にわたる日本人の仏像受容と造像の全歴史過程を、240点余の図版・専門研究者の解説と充実した巻末資料により明らかにする。
仏像への正しい理解・鑑賞のための必須知識修得に、学生・愛好者必携の仏像学習書。

このように書かれていました。

この商品説明は確かにあたっているな、と思いました。

本書は、まさに「定本の通史」といって良いぐらい、きっちりと凝縮した文章で構成されているのですが、まさに「学術レベルの概説」という感じで、淡々とした文章で綴られています。
大学の仏像史講義の教科書にするには最適といっても良いのでしょう。
ただ、読み物として読んでいくには、ちょっとしんどくて、飽きが来てしまうかもしれません。
これだけのクォリティが高い本のことを、そのように言うと罰が当たるかもしれませんが、私には、読んで楽しいというより、座右に置いておくべき必携書という本となっています。



新刊の山本勉氏著「日本仏像史講義」の新刊案内から始まって、仏像彫刻史の通史単行本の旧刊案内になってしまいました。

ご紹介した旧刊各書を振り返ると、仏像彫刻史というものの捉え方に、様々な視点、考え方、論点が存在することを知ることが出来、大変興味深いものがあります。

私には、それぞれの仏像彫刻史本に接したことが、仏像愛好趣味を深めてゆくうえで、大変勉強になりました。


ご関心がある本がありましたら、ご一読いただければと思います。

コメント

はじめまして

山本勉氏の新刊、ご紹介ありがとうございます。
今年3月に伺った「小学館美術全集刊行記念講演会」でのお話が大変すばらしいものでしたので、さっそく購入したいと思います。

  • 2015/08/10(月) 13:20:56 |
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  • 麻 #hszQL7r.
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