観仏日々帖

古仏探訪~神奈川県大磯町・六所神社の御神像に初詣  【2015.1.3】


あけましておめでとうございます。

今年も、「観仏日々帖」に、古仏探訪記事などなどを気ままに綴らせていただきたいと思います。
よろしくお願いします。

新年、元旦に赤坂山王神社に初詣にお参りした他は、とくに何事もなく過ごしておりました。

余りダラダラしているのも如何かと思ったり、
11月末以来、観仏に出かけていないので、若干の禁断症状気味だったりしましたので、
大磯・六所神社の男女御神像の特別公開に出かけてみました。


年始のご挨拶代わりに、ご紹介してみたいと思います。

大磯・六所神社の男女御神像の特別公開については、神奈川仏教文化研究所HP~秘仏御開帳~にて、ご紹介した処です。
年に1日、1月3日限りの「特別公開」ということです。

六所神社・御神像特別公開チラシ
六所神社・御神像特別公開チラシ

六所神社の男女神像は、長らく秘かに祀られてきた神像で、近年その存在が明らかになった像です。
平安後期11~12世紀の制作とみられており、2009年に神奈川県指定文化財の指定を受けました。

2006年に神奈川県立博物館で開催された「神々と出会う~神奈川の神道美術展」に、新発見の平安神像として初めて出展され、注目された像です。
私も、この展覧会で、六所神社・男女神像を見ている筈なのですが、あまりはっきりした記憶に残っていませんでした。

もう一度、しっかり拝してみようと、車で出かけました。

六所神社は、神奈川県中郡大磯町国府本郷という処に在ります。
出かけた時間は、ちょうど箱根駅伝の復路、選手たちが大磯あたりを通過する時間帯でしたので、渋滞があるのかなと思ったのですが、何の影響もなく、スムーズに到着しました。

案内看板に添って進むと、住宅街の中に、神社が見えてきました。

六所神社
六所神社

六所神社は、平安後期に相模国府がこの地におかれると、相模国内有力5社の分霊を合祀し、相模国総社六所神社となったという由緒ある神社ということです。
結構大規模な立派な神社なのかと想像していたのですが、割合こぢんまりと落ち着いた感じでのたたずまいでした。

本殿に掲げられた、巨大な注連縄が目を惹きます。
地元の方々が多いようですが、初詣の参詣の人々で賑わっていました。

六所神社・本殿
初詣の人々で賑わう六所神社・本殿


さて、お目当ての、男女神像です。

本殿へ上る階段下の脇に、小さな宝物殿があり、そこに男女神像が祀られていました。
「御神像・特別公開」の看板は立てられているのですが、参詣の人々は、あまり気に留める様子もなく通り過ぎていきます。
御神像・特別公開目当ての人も、あまり見かけないようで、気がついた初詣に来た人が、ちょっと覗いて帰るという状況でした。

六所神社・神像特別公開宝物殿
御神像が特別公開されている宝物殿

1月3日、「一日限りの特別公開」ということなので、もうちょっと注目されているのかなと思ったのですが、何やら、残念な気持ちです。

「じっくり、ご拝観!」

と、意気込んで近づいたのですが、ガラスケースの反射で、正面からはクリアーに観ることが出来ません。
扉の前から身を乗り出し、サイドの方から無理に覗きこむと、ガラス反射せずに観ることが出来ましたが、かなり窮屈なご拝観といったところとなりました。

神像が安置されたガラスケース~反射して見づらい
ガラスケースに安置されている御神像~反射してなかなか見づらい

なかなか古様な感じです。
男神像の方は四天王像のような天部の神将形、女神像のほうは、吉祥天のような女性天部形をしています。
両像共に、70㎝前後の像高です。

「神奈川の神道美術展」解説によると、
一木彫、彩色像で、背面から大きく内刳りがなされており、作風から見ると、11世紀終わりから12世紀前半にかけての制作と考えられる。
とのことです。

神社では、男神像を「素戔男尊」(スサノオノミコト)、女神像をその妃の「櫛稲田姫命」(クシナダヒメ)に宛てています。

六所神社・男神像~神奈川の神道美術展図録掲載写真
六所神社・男神像~神奈川の神道美術展図録掲載写真

六所神社・女神像~神奈川の神道美術展図録掲載写真
六所神社・女神像~神奈川の神道美術展図録掲載写真

六所神社・男神像~神奈川の神道美術展図録掲載写真..六所神社・女神像~神奈川の神道美術展図録掲載写真
六所神社・男女神像~神奈川の神道美術展図録掲載写真

六所神社・男神像背面~神奈川の神道美術展図録掲載写真...六所神社・女神像背面~神奈川の神道美術展図録掲載写真
六所神社・男女神像背面内刳りの様子~神奈川の神道美術展図録掲載写真

男神像は、すらりとしたシルエットで、青年のような印象を受けます。

六所神社男神像~特別公開現地写真
男神像・顔部~特別公開現地写真
天部形の神将像ですが、四天王のような忿怒の表情ではなく、「憂愁に満ちた」青年というか、「眉根を寄せて苦悩煩悶する」といっても良いような表情をしています。

「悩める神」の表現とでも、たとえられるのでしょうか?
少しぎこちないような立ち姿をしています。

この神像の作者は、この造形で、どのような「神」を表現したかったのでしょうか?

落ち着いて、整った表現ですが、何やら得も言われぬ惹きつける魅力を感じさせるように思いました。
私の好きな「迫力やパワー、鋭さ」は無いのですが、「静かな深みを持つ魅力」を備えているようです。
この男神像、結構、好きになってしまいました。

六所神社男神像~特別公開現地写真..六所神社男神像~特別公開現地写真
六所神社男神像~特別公開現地写真

よく見ると、ベルトのバックルのような「帯喰い」の獣の顔まで、憂いや苦悩に満ちたような特異な表情をしています。
是もまた、この神像制作にあたって、意図的にそのように表現されたのでしょうか?

薄井和男氏は、「神奈川の神道美術展」図録解説で、このように述べています。

「一見、宝塔をかかげて立つ毘沙門天像が想起されるが、いっぽう、その面貌は若い美青年相にして、眉をひそめ、やや上唇をとがらせ、怒りとも苦悩ともつかない不思議な表情をたたえている。
通常の天部神将像とは明らかに違う。
神像に特有の異相表現が加わったと解釈されよう。

それはまた腹前の特別大きな獅噛に、一種、怨念相のような威風表現にも指摘がされよう。

一方、こうした異相表現とは別に、体部の肉取りや身のこなし、甲冑や裳の着衣表現は的確にして洗練され、造形に欠点が認められない。
全体を通し人を強く引きつける魅力をそなえた、注目すべき神像といえよう。」
(「神々と出会う~神奈川の神道美術展」図録・2006.2神奈川県立歴史博物館刊)

この男神像を「不思議な表情の異相」とみられています。


女神像の方はどうでしょうか?

女神像は、顔部が少し摩耗していることもあって、その表情がはっきりと伺えません。
よーく観ると、男神像と同じように「憂鬱そうに苦悩する」表情をしているように感じられます。
全体の造形も、なかなかバランスよくしっかり出来ているようです。

六所神社男女神像~特別公開現地写真

六所神社・女神像~特別公開現地写真..六所神社・女神像~特別公開現地写真
六所神社女神像~特別公開現地写真

男女神の形制は随分と違いますが、同じ手の対をなす神像として造られたような感じがしました。

薄井和男氏も、女神像について、このように述べています。

「面相は眼を伏せ、上唇をやや尖らせ、瞑想あるいは苦悩ともとれる不思議な表現をしめし、男神像と同じ異相表現が指摘される。
・・・・・・・・・
男神像と異なった点も所々みられるが、表情の雰囲気や彫刻としての巧妙な造形など、作風に共通点が認められ、ほぼ同時期の制作と考えてよいと思われる。」
(「神々と出会う~神奈川の神道美術展」図録・2006.2神奈川県立歴史博物館刊)

対をなす神像として造られたかどうかは微妙?
という見方のようですが、同時期の制作と考えられているようです。

六所神社の男女神像、ガラスケースの陽の反射で、大変見にくかったのが残念至極ではありましたが、なかなか見所のある神像に出会うことが出来ました。
落ち着いた、静かで深みある造形表現が魅力です。

「憂愁に満ち、苦悩煩悶する神像」

こんな、神像表現の領域があるのかどうか、勉強不足で良く判りませんが、そんな不思議な世界の神像に出会った気分になりました。



ところで、近年、神奈川県では、古神像の新発見が相次いでいます。

「神像」というのは、参拝する人がその姿を拝するという性格のものではなく、ご神体として秘められて祀られることが通例です。

当然ながら、なかなか公開されることはありません。


今回ご紹介した、六所神社の男女神像も、新たに発見されたものです。

ネットの検索情報などによれば、1991年の本殿建替えの時に、本殿の裏手から発見されたそうです。
15年前、2000年ごろに神奈川県立歴史博物館が、「神奈川の神道美術展」の開催に備えて、県内の神社の調査にまわったときに、平安時代の古神像であることが判明しました。

そして、「神奈川の神道美術展」に出展され、初めて公開されたのです。

当時(2006年)は、神奈川県では、箱根神社の万巻上人坐像(平安前期・9C)に次いで、第二に古い神像彫刻の発見とされ、大いに注目を浴びました。

箱根神社・万巻上人坐像
箱根神社・万巻上人坐像

その後、2009年に、県指定文化財に指定されました。
「神奈川の神道美術展」で公開されて以来は、2010年に文化財指定を機に大磯町郷土資料館で特別公開されただけで、非公開となっていました。
そして2年前からは、毎年1月3日に限り、六所神社宝物館で特別公開されることになったということです。


ところが、2006年、箱根神社に、六所神社神像より古い平安時代の神像が存在することが明らかになりました。
そのうち2躯の神像は、平安時代の制作とみられるものでした。

箱根神社・新発見男神像(重文)..箱根神社・新発見女神像(重文)
箱根神社・新発見男神像(平安時代・重文)

これらの神像は、歴代の宮司以外は見ることができず、長らく神殿の奥に秘されていました。
2006年に、宮司の英断により、調査に付されることになりました。

宮司の浜田進氏の談によりますと、

「今年の春に神奈川県立歴史博物館で『かながわの神道美術』展を開催されたから、公開する気になったんです。
最初は非常に疑問を持っていたのですが、展覧会では神奈川県の神社がそろって出品し、正しい評価を与えられた。
これで問題なしと思った。」

ということで、公開に至ったとのことです。

このあたりの話は、
有隣469号WEB版「座談会~箱根神社とその遺宝−秘蔵されていた平安時代の神像を初公開−」(2006.12)
に詳しく語られています。

この平安時代の制作とみられる2躯の男女神像(像高60㎝前後・一木造り)は、2012年、国の重要文化財に指定されました。


そのほかにも、注目すべき古神像の発見がありました。

神奈川県中郡大磯町高麗に在る、高来神社の神像群です。
六所神社から東に4~5キロの処に在り、高麗神社とも呼ばれているそうです。

高来神社社殿
高来神社社殿

この高来神社の社殿(旧高麗寺本堂)の東隣に立つ御輿堂から、十余体にのぼる神像群が見つかったのは、2000年の事でした。
大磯町が実施していた古建築悉皆調査の折、偶然、この堂内奥に多数の木像があることが確認されたのがきっかけでした。

果たして、この神像群は、鎌倉時代の制作であること考えられ、調査を進めるうち、一部の像から弘安5年(1282)の年紀銘まで見出されました。
類い稀なる鎌倉期の神像群の出現といえる発見でした。

像高1メートル内外の寄木造の像ですが、なかなかの気迫に満ちた像で、圧巻といえる魅力ある神像群です。
「神奈川の神道美術展」に出展されましたが、結構、見とれてしまいました。

高来神社・男神立像

高来神社・男神立像..高来神社・女神立像
高来神社・男女神立像(鎌倉時代)

この神像群発見の経緯は、
有隣415号WEB版「新発見の大磯町高来神社の木造神像群(薄井和夫)」2002.6
に、詳しく記されています。

この神像群、大磯町の指定文化財に指定されていますが、「大磯町郷土資料館」に保管され、修復が必要なことなどから、残念ながら公開されていません。


六所神社・古神像のご紹介と共に、近年、神奈川県で発見された古神像についても、併せて採り上げさせていただきました。

ベールに閉ざされていた神像の世界も、近年、少しずつその姿を顕わしつつあるようです。

皆さんご存じのとおり、近年公開された広島・御調(ミツキ)八幡宮の神像三躯(2003年・重要文化財指定)は、驚きの古神像の発見でした。
平安初期の制作で、大変な迫力溢れる古像です。
なかでも古様な女神像は、俗体(女)神像としては、我が国最古の制作の可能性もあると云われています。

御調八幡宮・女神像
御調八幡宮・女神像(平安前期9C・重文)

まだまだこれから新たな古神像の発見があるのかもしれません。

どんな古神像が姿を顕わすのか、本当に愉しみです。


そろそろ、お屠蘇気分も抜けてきた頃かと思います。
本年も、よろしくお願いいたします。

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