観仏日々帖

古仏探訪~京都・勝光寺 聖観音立像

神光院・薬師如来像に続いて、もうひとつ京都市内の「無指定の平安古仏」を、ご紹介したいと思います。

勝光寺、聖観音立像。
このお寺は、京都のど真ん中、阪急電車四条大宮駅から南へ500メートルぐらい歩いたところに在ります。(下京区中堂西寺町)
新撰組で有名な壬生寺の近くです。

勝光寺 聖観音像 顔部 勝光寺 聖観音立像

この仏像を、初めて見たとき、「不思議な感覚」におそわれました。

檀像風の小像ですが、何とも妖しい魅力を云うか、妖艶な気をその体躯から発散させているのです。
短躯なのに、不自然なまでに腰をくねらせて、豊満な妖艶さがあふれ出しているようですし、顔貌はいわゆるインド風というのでしょうか、高くて大きな鼻から眼にかけての表情が特異で、瞳の目力(めぢから)が妖しい異国人の風貌です。
この聖観音にじっと見つめられると、その妖しい瞳の魅力に射すくめられるようで、近づいてはいけないことが判っている危ない女性に、判っていながら惹き込まれていってしまいそうな、「不思議な感覚」におそわれます。

私は、滋賀草津の常教寺の聖観音の顔を思い出しました。
そっくりな顔というわけではありません。しかし、どちらの像からも、ちょっと不謹慎ですが「妖しい目力(めぢから)で、射すくめるように誘い込む」といった空気を感じます。

常教寺 聖観音立像 顔部......常教寺 聖観音立像


この勝光寺の聖観音像、間違いなく9世紀の平安古仏だと思います。
それも、檀像風小像としては、ちょっと変わっているけれども、出来の良い優れた仏像だと思います。
みなさん、如何でしょうか?
ところが、この聖観音像、現在も無指定の仏像です。
どうしてなのでしょうか?
重要文化財とまではいかなくても、府指定ぐらいは当然かなと私は思うのですが。


この仏像の存在を初めて知ったのは、井上正氏著の「古仏~彫刻のイコノロジー」(S61・法蔵館刊)に、採り上げられていたからです。
この本は、井上氏が「霊威表現による古密教仏である」と考える仏像36躯について論じた本です。
その多くの像が、制作年が奈良時代までさかのぼる可能性を指摘しています。
大阪・孝恩寺像や三重・観菩提寺像、朝田寺像など、強烈な個性、クセのある仏像ばかりがラインアップされています。
私も、これらの異貌の古仏たちに、大いなる魅力を感じており、京都のど真ん中の市中に、こんな変わった仏像があるのかと、出かけてみたのでした。


お寺にご連絡すると、「いつでもどうぞ」と大変気さくなご返事をいただき、一人で伺いました。
勝光寺は立派な日蓮宗のお寺で、昭和54年に新築されたという堂々たるコンクリート造りの本堂があり、客殿や庫裏もあります。

勝光寺 本堂 勝光寺 庫裏



めざす聖観音像は、本堂の隅っこの方の厨子に祀られています。
客仏ということですが、像背面に書かれた墨書から、明治9年に他の寺院との合併によって勝光寺にもたらされたことが判っています。勝光寺 聖観音像 上半身

客仏で無指定仏ということだからでしょうか、「どうぞご自由に拝んで、見ていってください」と、厨子を開いていただけました。

像高113.2㎝。カヤ材の一木造りで、蓮肉部も共木から彫り出しており、内刳りはありません。
代用檀材のカヤ材の上に黄檀色を加えた、いわゆる「檀色像」だと思われます。
一見しただけで、平安前期仏の雰囲気満点の仏像です。
衣文の彫口の鋭さ、鋭く精神性を強調した面貌、ボリューム感あふれる体躯、カヤ材で蓮肉まで一木共木の彫法、どれをとっても平安前期、9世紀の仏像に間違いないと思います。


勝光寺 聖観音像 顔部.......勝光寺 聖観音像 脚部


ところが、この仏像について採り上げた本や、論文が無いのです。
井上正氏以外に、この仏像について言及したのは、私の調べた限りでは川勝政太郎氏だけです。
それもずいぶん昔の、昭和19年のことです。
「史迹と美術」157号に、資料「勝光寺の聖観音像」として、2ページだけですが紹介されています。
川勝氏は、この像を弘仁末の制作と見たうえで、
「先ず京都市付近に於ける聖観音像の古像として、屈指の中に入るべきものが見出されたことだけでも、我々の関心を引くに足るであろう」
と結んでいます。

ところが、現在に至っても無指定ということなのですが、理由はよく判りません。
京都市中では、このレベルの仏像では、重文はおろか府・市指定も難しいということなのでしょうか?
私の眼には、そのようには映らないのですが、ほかに事情でもあるのでしょうか?

それにしても、この聖観音像、エキゾチックな特異な造形です。
川勝氏も井上氏も、法華寺の十一面観音像を、造型的な類似例として挙げています。
こういうのを、インド風というのでしょうか?

<法華寺 十一面観音像.......法華寺 十一面観音像


井上氏は、この像のインド風について、次のように解釈しています。

「側面からみると、この短躯像に異常な奥行が与えられているのがわかる。バランスを無視した量感だ。
眼に見えるかたちとしては、遥かに隔たってしまっているが、豊満にして優婉なポーズの女神像の精神が、この像に受け継がれていると考えても良いであろう。」(古仏、1986年)
「短躯の像が左方へ大きく腰を捻り、右脚を遊ばせるさまはやや異様である。
豊かな髪と三屈のポーズの強調は、とりもなおさず女の誇示であり、古代インドのヤクシーのそれがとりいれられたように思える。
そう考えると、この異様さも多少解釈がつく」
(「仏教美術におけるインド風について」仏教美術研究上野記念財団助成研究会報告書14冊、1986年)

勝光寺 聖観音立像 正面 勝光寺 聖観音像 側面 勝光寺 聖観音像 背面


平安前期の檀像様の仏像は、異国風の特異な造形や、霊威表現の歪んだ造形などの像が多く、興味深く見る人の心を惹きつける何かがあるようです。

インド風の論議はさておくとしても、この勝光寺の聖観音像もそんな魅力を備えた仏像です。
私も初対面以来、この像の、妖しい目力(めぢから)の魅力と霊威の迫力に惹かれて、何度か拝みに訪れています。

是非一度、この無指定の隠れた平安古仏とご対面されてみてはいかがでしょうか。

コメント

ようやく市指定に

御紹介された像が市指定になりました。
紹介記事が後押しになったんでしょうね。
http://www.city.kyoto.lg.jp/bunshi/page/0000163405.html

  • 2014/09/14(日) 23:39:14 |
  • URL |
  • 修理屋 #-
  • [ 編集 ]

Re: ようやく市指定に

修理屋様

勝光寺・聖観音像の、京都市文化財指定の情報、ご連絡いただき有難うございます。
文化財指定されたこと、全く知りませんでした
教えていただいた「京都市情報館」の新指定文化財情報によると、2013年4月に指定されていたのですね。
(ネット上の、新指定文化財情報は、何故か2014年3月に掲載されていますが・・・??)

それにしても、何よりですね
京都は、市指定文化財のレベルが相当高いと思いますので、結構なことだと嬉しく思いました。

近々、HP上で、勝光寺・聖観音像~文化財指定の情報を、掲載・ご紹介したいと思います。

有難うございました。

  • 2014/09/16(火) 15:03:42 |
  • URL |
  • 神奈川仏教文化研究所 #-
  • [ 編集 ]

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  • 2014/09/18(木) 21:22:11 |
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  • 2014/09/18(木) 21:30:58 |
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