観仏日々帖

古仏探訪~東大寺・法華堂 執金剛神立像 (実物、模造、CG再現)


久しぶりに、東大寺・法華堂の秘仏・執金剛神立像を拝して来ました。

ご存じのとおり、この秘仏は、東大寺開山と伝える良弁忌の12月16日、年に一日限り御開帳されます。
今年の御開帳は、3年ぶりの開扉となりました。
2011~12年は、法華堂の解体修理の作業のため、公開が見送られていたのです。

私も、執金剛神像を拝するのは、十数年ぶり。
本当に久しぶりのご対面となりました。
平日の月曜日だったのですが、結構多くの人出で、執金剛神像開扉早々の9時半過ぎに、早や行列が出来ていました。

法華堂で執金剛神像の拝観に並ぶ人々
法華堂で執金剛神像の拝観に並ぶ人々

当日は、開山堂の良弁像(国宝・平安時代)、俊乗堂の重源像(国宝・鎌倉時代)も併せて開帳されます。
この二像も拝しましたが、開山堂には、法華堂よりも長い行列が出来ていて、結構待たされることとなりました。

開山堂入口に出来た長い行列
開山堂入口に出来た長い行列

良弁像は博物館などで時々見ることが出来るのですが、執金剛神像と良弁像を拝するのは久しぶりで、ごった返す人出のなかではありましたが、じっくり堪能することが出来ました。

さて、国宝・執金剛神立像は、云うまでもなく天平時代を代表する素晴らしい塑像です。
この像のことは、色々な本で言い尽くされていますので、「観仏日々帖」でアレコレ書くのは、ヤメにしておきたいと思います。

最近では、本像が、戒壇院四天王像、日光月光菩薩像とともに、本尊不空羂索観音の八角基壇上に祀られていたという考えが示されたり、これら塑像の心木構造についての新たな知見が示されたりしており、大変興味深いのですが、これらの話題にふれていくと、泥沼にはまっていきそうですので、これまた、ヤメにしておきます。

久しぶりにこの像を拝した感想を、敢えて一言だけ。

執金剛神像は、北壁の壇の上にのぼって正面から観ると、何やら固まったような感じで、生硬でぎこちない感じにこれまで見受けていたのです。
今回、春日厨子の斜め下から、高い位置に安置された姿を見上げると、意外や意外、

「颯爽と、疾風の中を、雲に乗り駆けんとす。」

勝手な空想ですが、そんな力感と動勢を強く感じてしまいました。

正面の眼線の高さから観る執金剛神像
正面の眼線の高さから観る執金剛神像

真下から見上げた執金剛神像
真下から見上げた執金剛神像

拝する位置や角度で、仏像の姿の印象は結構変わるものだと、今更ながらに思いました。
この像の作者は、拝する人の眼線がどの位置から注がれることを意識して造立したのでしょうか?


法華堂前の彩色復元図展示看板
法華堂前の彩色復元図展示看板
この日、法華堂の入り口や、東大寺ミュージアムの入り口に、このような掲示看板が出されていました。

「東大寺法華堂 執金剛神立像 彩色復元図展示中
場所:東大寺総合文化センター(東大寺ミュージアム)エントランス」


極彩色の執金剛神像の復元画像写真も掲示されています。
驚くようなケバイ、ど派手な画像です。

早速、東大寺ミュージアムへ行って、執金剛神の彩色復元図を観てきました。


会場には、執金剛神像の原寸大の巨大な復元画像写真が、4枚展示されています。
正面、背面、左右側面を、コンピュータ・グラフィックスで再現した画像写真です。

「制作当時の、鮮やかな原色で復元された」
というのでしょうが、
「ちょっと、ケバくて、どぎつ過ぎて、眼がくらむ」

というのが正直な感想です。

東大寺ミュージアムでの復元画像写真展示風景
東大寺ミュージアムでの復元画像写真展示風景

CGで再現された執金剛神像・画像写真
CGで再現された執金剛神像・画像写真

彩色が剥げてしまっていたり、古色にくすんだ仏像ばかり見ているものにとっては、刺激が強烈過ぎて、美しさを鑑賞するとか、味わうとかいう気持ちになかなかなれません。
しかし、天平時代に造られた当初は、極彩色であったことは事実なのですから、そのような気持ちになって観なくてはいけないということなのでしょう。


このCG再現は、
東京芸術大と東京理科大の共同研究チーム(代表=籔内佐斗司・東京芸大大学院教授)が、表面に残る顔料から天平の極彩色文様を復元したものだそうです。
現在の色あせた像を蛍光エックス線で分析するなどし、使われていた顔料を特定、3Dデータに反映させたものです。

朝日新聞の報道には、

「2年がかりの研究の結果、甲の金箔(きんぱく)の上の雲文(うんもん)や唐草文、腰回りの小札(こざね)の孔雀(くじゃく)の羽根や対葉花文(たいようかもん)があざやかに再現された。
CG制作を担当した山田修・東京芸大大学院非常勤講師は、
『ここまで鮮やかなのは、特別な空間にいる、人間を超えた存在を求めたためでは。
当時の人々の仏教への思い入れの強さがうかがえる』
と話す。」

このように、書かれていました。

また、解説パネルによると、

・執金剛神像の彩色を蛍光X線分析した結果、褐色部分に水銀が検出されなかったため、「紺丹緑朱」ではなく、「紺丹緑紫」の配色原理を用いていることが判明した。
下地には鉛白が使われていた。


執金剛神像の彩色文様復元図...執金剛神像の彩色文様復元図(「奈良時代の塑像神将像」2010年中央公論美術出版社刊所収)
執金剛神像の彩色文様復元図
(「奈良時代の塑像神将像」2010年中央公論美術出版社刊所収)


・眼球は、黒曜石ではなく、鉛ガラス製であることが明らかになった。
不空羂索観音の宝冠にも鉛ガラスが使われている。

ということでした。

12月8日には、東大寺ミュージアムの講堂で、報告会が開催されたようです。
また、この報告会の内容や3D作成に至るまでの過程などがTV番組で放映されるそうです。

12月30日(月)、ABC朝日放送です。

「よみがえる天平の秘仏」(ABC、地デジ、9:55~10:50放送予定)

是非見てみたいのですが、関西限定のローカルで、全国放送は無いそうです。
残念ですが、関東在住の私は、観ることが出来ません。
関西の方、ぜひご覧になってみてください。

【12/30入手の最新・追加情報です!
1月17日にBS朝日で全国放送されるようです。~不確実情報ですので、ご確認いただくようお願いします】


【2014/1/11:全国放送日時の訂正です!】
BS朝日での放送日時が1/17でという情報は間違いで、1/18に放送されることが判りました。
1月18日(土) BS朝日放送 15:00~15:55放映
となります。
追加訂正情報として、お知らせいたします。


ところで、このような制作当初の彩色復元がかなり精巧にできるというのも、この執金剛神像が、長年秘仏として厳重に封印され守られてきたため、当初の鮮やかな彩色が、随分鮮明に残されているからだと思います。

執金剛神像に遺された彩色文様

執金剛神像に遺された彩色文様
執金剛神像に遺された彩色文様
(上)左上膊部  (下)表甲・甲締め具


法華堂本尊背後に北面して、黒塗りの春日厨子に祀られていますが、相当古くから秘仏とされていたようです。
将軍・足利義政が、寛正6年(1465)、東大寺に参詣した折に、この厨子が開扉されましたが、
「是には勅封を付せず、御代に一度の外は開帳なし」(東大寺雑事録・巻二)
と記されていることから、室町時代には、厳重秘仏であったことが知られています。

明治時代に入ってからは、執金剛神像の写真も撮られるようになり、また東京美術学校の竹内久一によって、当時の彩色を忠実に写した模造も制作されました。

そこで、ここで、実物、明治の古写真、竹内制作の模像、CG画像をちょっと並べて、ふりかえってみたいと思います。

まずは、明治の古写真です。

小川一真 明治21年撮影写真(真美大観所収)
小川一真 明治21年撮影写真(真美大観所収)

この古写真は、明治21年(1988)に、小川一真が撮影したもので、「真美大観」(1902年刊)に掲載されているものです。
明治34年、美術院により修理される前の写真です。

同じ角度から撮られた現在の執金剛神像写真
同じ角度から撮られた現在の執金剛神像写真

一見、現在の像と、どこも変わらないように感じますが、よく見ると、向かって左側のひるがえる天衣の部分、右腕の角度?、手に持つ金剛杵の角度などが変わっているようです。


次に、明治24年(1891)に、東京美術学校の竹内久一が制作した、執金剛神像の模刻像です。

竹内久一作・執金剛神像模像(明治24年制作)

竹内久一作・執金剛神像模像(明治24年制作)
竹内久一作・執金剛神像模像(明治24年制作)

執金剛神像の生き写しと云える作品で、鮮やかな彩色も模写されています。

竹内久一模像・執金剛神像左脚部
竹内久一模像・執金剛神像左脚部
模刻、模写の像ですが、当初の彩色を、ある程度復元、再現しているようで、肌色の鮮やかさや、極彩色の精密文様などが、美しく目に焼き付きます。

この模像、何と木彫像で造られています。
木彫で、塑像の質感を追求し、見事に彫り上げられています。
実物の型取りするなどして複製したものではなく、自らの腕で「真写し」の模刻を行ったものです。

この像を観ていると、単なる模刻というのではなく、彫刻作品として優れた造形精神が深く込められていると感じさせます。
訴えてくる迫力があります。
造形精神まで写しとる「伝移模写の美術」を体現した、竹内の美術作家としての優れた手腕が、伝わってきます。

この模刻像は、たまに東京国立博物館の本館2階に展示されることがありますので、ご覧になった方も多いのではないかと思います。


当時、この他にも、法華堂・月光菩薩像、戒壇院・広目天像、薬師寺東院堂・聖観音像などの仏像模刻が、いくつも制作されました。
これは、岡倉天心が、東京帝室博物館に展示し鑑賞に供するために、模造事業を推進したことによるものです。
天心は、当時、帝国博物館の美術部長、東京美術学校校長の職にありましたが、博物館の収蔵作品がまだ少なかったこともあり、主要な日本美術の沿革を通観できるようにする為、東京美術学校の作家に名作の模写、模刻を行わせ、博物館展示を行うという事業に取り組んだのでした。

さて、この模刻像の姿かたちを観ると、明治21年に撮影された姿ではなく、明治34年に美術院によって修理された後の姿の方に、似かよっています。
竹内が模刻像を造ったのは明治24年のことですが、その後の美術院修理と、何か関係があるのでしょうか?
竹内が、模刻に際して、当初の姿を想定復元して制作したのでしょうか?


そして、最後にもう一度。

CGで再現された執金剛神像・画像写真
CGで再現された執金剛神像・画像写真)

今回、東京芸術大と東京理科大の共同研究チームで制作された、コンピュータ・グラフィックスの復元画像です。


いかがでしょうか?

科学的には、精密に復元されているのでしょうが、

「CGで制作した画像は、やはりどこまで精密にできてもCGだな。」

このように感じてしまいます。

何となく、微妙な違和感をぬぐいきれません。
やはり、名手の手で、強い造形精神を注入しながら創り上げたものは、複製や画像とは、「人に訴える力」「迫真性」が違う、と思ってしまいました。

とはいっても、制作当初の姿、彩色を精密に復元するというのは、極めて重要かつ意義のある研究であると思います。

執金剛神像の、
実物、明治の古写真、明治の模刻、現代のCG画像を並べてみてみました。
如何だったでしょうか?
余り意味のないことだったのかもしれませんが、執金剛神像の色々な姿かたちを観るという意味では、面白い処もあったのではないかと思います。


おしまいにオマケで、近年、制作当初の姿、色彩、文様を復元した、極彩色の色鮮やかな仏像の名作の模像の写真を、いくつかご紹介しておきます。


興福寺・阿修羅立像の模像です。

興福寺・阿修羅像模像(昭和61年制作)

興福寺・阿修羅像模像(昭和61年制作)...興福寺・阿修羅像模像(昭和61年制作)
興福寺・阿修羅像模像(昭和61年制作)

美術院国宝修理所で松永中興氏を制作主任として、昭和61年(1986)に、古代脱活乾漆像の技法をそのまま用いて復元模造されたものです。


唐招提寺・鑑真和上坐像の模像です。

唐招提寺・鑑真和上像(平成25年制作)

唐招提寺・鑑真和上像(平成25年制作)
唐招提寺・鑑真和上像(平成25年制作)

これも、美術院国宝修理所で木下成通氏を制作主任として、今年・平成25年(2013)に、同じく古代の制作技法をたどって制作されたものです。
現在、唐招提寺の開山堂に安置されていますが、現在は古色が付けられています。
写真は、古色をつける前の、制作当初と思われる彩色のものです。


新薬師寺・十二神将 伐折羅立像のCGによる再現画像です。

新薬師寺・伐折羅像CG画像(平成20年制作)

新薬師寺・伐折羅像CG画像(平成20年制作)
新薬師寺・伐折羅像CG画像(平成20年制作)

東京芸術大学の長澤市郎氏と、奈良教育大学の大山明彦氏の指導の下に、映像制作会社の松澤直美氏などによって制作された再現画像です。


この、原色、極彩色の仏像の世界、ご感想は如何だったでしょうか?


コメント

あけましておめでとうございます。
今年も楽しく閲覧させて頂きたいと思います。

CGと模刻ではやはり平面画像と立体との差は出てしまいますね。
最近では、3Dプリンタのように、
立体彫刻であっても簡単に復元できてしまう技術もあり、補修や研究資料などの点では大変役に立ちそうではありますが、
「ありがたみ」は薄いでしょうね。

それにしても、制作当初の色は現代人の目からすると本当にけばけばしく見えますね(^^;
お堂の中も極彩色だったでしょうから、想像できないほど派手だったと思います。
もっとも、当時の人には、まさに浄土に見えたことでしょう。

  • 2014/01/04(土) 20:53:12 |
  • URL |
  • とら #VBkRmpN2
  • [ 編集 ]

Re: タイトルなし

とら様

新年おめでとうございます。

おっしゃるようにCG画像と模刻では、立体造形を実感するという点で、随分違いますね。
また、3Dプリンターや三次元計測等で型抜きした模造は、寸分たがわないように見えるのですが、こうした制作方法によるものは、作品から伝わってくる「勢いとか気」とでもいうのでしょうか、そうした作品が発散する迫力のようなものが、足りなくなってしまうように思えます。
同じ模像でも、優れた技量、芸術性を備えた人が、自らの手で制作したものには、そのような「訴える力」が自然と備わっているようです。
美とか芸術というのは、そうしたものだと今更ながらに思ってしまいました。

今年も、よろしくお願いいたします。

  • 2014/01/08(水) 18:39:52 |
  • URL |
  • 神奈川仏教文化研究所 #-
  • [ 編集 ]

よみがえる天平の秘仏~TV放送

本文中で、
関西限定で放映されたTV番組
「よみがえる天平の秘仏~復元!東大寺法華堂の執金剛神像~ 」
の、
BS朝日での全国放映日時を、1/17予定とお知らせしましたが、この情報は間違いで、1/18に放映されることが判りました。
正しい放送日時は
1月18日(土) BS朝日放送 15:00~15:55
です。
追加訂正情報として、お知らせいたします。

ご興味のある方は、ご覧になってください。

  • 2014/01/11(土) 21:51:18 |
  • URL |
  • 神奈川仏教文化研究所 #-
  • [ 編集 ]

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