観仏日々帖

古仏探訪~秋田県大仙市 小沼神社・観音菩薩像【その1】


「心洗われる」

こんな気持ちがこみあげてきたのは、何年ぶりのことしょうか?

齢のせいなのか、最近、いろいろな所へ仏像探訪に出かけても、心が揺さぶられるような感動を味わうということが、あまりなくなってきたように思います。
仏像だけではなく、各地を訪れても、海外旅行に出かけても、同じような感じです。
還暦も過ぎてしばらく経つような歳になってしまうと、感性や感受性がだんだん鈍ってくるのでしょうか?

四十余年前の学生時代、地方仏探訪に各地に出かけていた頃は、観る仏像それぞれが皆、「新たな感動」であり「心揺さぶられる」ものであったように思います。

なかでも、岩手・水沢の黒石寺を訪ねたとき、前夜、檀家総代の方のお宅に泊めてもらい、夜明けの朝陽が朝露にふりそそぐなか、あの魁偉な薬師如来像を拝した時の感動は、今でも鮮明に心に刻まれて残っています。

黒石寺・薬師如来坐像
若き日に拝した黒石寺・薬師如来坐像

今年の七夕、7月7日、小沼神社を訪れました。

小沼のほとりに佇む小さな社殿に祀られた、2体の観音像を拝したとき、
「心洗われる」
という言葉が、本当にそのままあてはまるような思いに浸ることができました。
若き日の仏像探訪の、心揺さぶられた感動の記憶が、蘇ってきたような気持ちになったのです。


私をそんな気持ちにした、小沼神社と観音菩薩像をご紹介したいと思います。

秋田県は、隣の岩手県と違って仏像不作の地というか、知られた平安古仏がほとんどないといってもよい地です。
実は、私も、これまで全国各地の仏像を探訪してきましたが、秋田県の仏像を訪ねたことはありませんでした。

「一度は、秋田の平安古仏を観に行ってみようか」

と、同好の方と、小沼神社、談山神社、土沢神社の三つの古仏探訪に出かけたのでした。


小沼神社は、桜で有名な角館(かくのだて)から車で30分ぐらいのところ、大仙市豊岡というところの小高い山中にあります。
平安時代の2体の木造観音立像が祀られており、ともに秋田県の指定文化財になっています。
像高170~180cmぐらいの木彫像ですが、聖観音の方は、平安前期とか中期の制作ではないかといわれています。
また、神仏習合像との考えもある、秋田県では最注目の仏像です。

普段は秘仏として開扉されることはなく、夏と正月の例大祭のときに限り、開帳されるということだそうです。
今回は、同好の方が、教育委員会などを通じてお願いいただいて、拝観ができることになりました。
豊岡の集落までたどり着くと、地元で小沼神社を管理している地区の方が、迎えに出ていただいていました。

迎えの方の車の先導で、山間の細い道路をくねくねと登っていきます。
集落から小沼神社への参道があり、登ると歩いて20~30分で本殿に着くそうです。
ただ、普段はここを訪れる人もなく、参道は草叢のようになっていて、とても歩いてはいけないとのことです。

小沼神社参道入り口の鳥居..小沼神社参道
(参考写真)小沼神社・入口鳥居と参道~歩けるよう整備された時の写真

例大祭の時には草刈りをして、歩けるようにするのだそうで、今日は迂回路を車で往くことになりました。
我々の車は途中までで、そこからは先導車に乗り換えです。
「細すぎる道で一般の車では危ない」ということなのです。
車は、道なき道のようなところを、草をなぎ倒しながら進みます。

小沼を囲む鬱蒼とした杉林
小沼を囲む鬱蒼とした杉林

しばらく行くと、杉林の開けたところにたどり着きました。

車を降りて、少し歩くと、小沼神社が目に入ってきます。
本当に驚きました
鬱蒼とした森の中、突然眼の前に開けた空間が出現し、そこには緑色の小沼が水をたたえているのです。
そして、沼の向こう側には、小さな社殿がひとつ、ポツリと静かに佇んでいます。

なんという景観でしょうか!

小沼と小沼神社

小沼と小沼神社

小沼と小沼神社
小沼と小沼神社の景観

こんな山の中に、こんな美しい景色が秘められているなどとは、想像もつきませんでした。

昔話やお伽話に、
「道に迷った村人が、神仙のような場所に導かれる」
という話がありますが、
こんな景色を云うのだろうかと思わせます。

まさに、「霊境」の趣で、神が降臨する聖地の佇まいです。


この景色に胸を撃たれ、ちょっと痺れたような気分で社殿に向かうと、地区の方と宮司さんが先に来られていてお迎えいただきました。

小沼神社
小沼神社社殿でお迎えいただいた宮司さん

宮司さんは、なんと若い女性です。
お尋ねすると、先代宮司を継がれて神主をされているそうです。
普段は、別の神社の宮司でいらっしゃって、地区で管理している小沼神社の宮司も兼任されているとのことです。

昇殿させていただき、宮司さんと地区の方3名の皆さんにご挨拶し、我々も居住まいを正して正座すると、ご開帳の儀式が始まります。
神式のご開帳は、初めての経験です。

仏像は、厨子の前に立ち並んでいて、見えるところに祀られているのですが、祝詞の奏上があり、玉串を捧げて、ご覧のようにお像の前に沢山の蝋燭がともされました。

蝋燭が灯された本殿内
蝋燭が灯された社殿

警蹕(けいひつ)というそうですが、降神、昇神の「ォォォオオオォォ」というという唸り声には、心身引き締まる思いがします。

宮司さんによる御開帳儀式

宮司さんによる御開帳儀式
宮司さんによる御開帳儀式

さて、二体の観音像、聖観音像と十一面観音像のご拝観です。

宮司さんから、すぐそばまで近寄ってじっくり観て良いとのご了解を頂戴し、眼近に360度ビューで拝見しました。

小沼神社・二躯の観音像
二躯の観音像(十一面観音・聖観音)

聖観音像は、
全体に個性的で独特の表現で、仏像というよりも「霊的なもの」を強く感じさせます。
細身で八頭身のいかり肩、鼻下の人中の刻線、すぼまるように突き出た唇が印象的です。
上半身は奥行きが浅いですが、下半身は厚みがあり重厚感を感じさせます。
膝頭が高い位置にあり、脛が異様に長くなっています。

小沼神社・聖観音立像....小沼神社・聖観音像上半身
聖観音像・上半身

小沼神社・聖観音像頭部...小沼神社・聖観音像頭部
聖観音像・頭部

眼を惹くのが、頭頂の大きな二段の髻。
よーく観ると、髻の中には、わずかに目鼻を刻んだ顔面に気がつきます。
化仏の仏面なのでしょうか? 
それにしては可愛い表情です。

小沼神社・聖観音像頭頂
聖観音像・頭頂部に刻まれた可愛い顔

十一面観音像は、
聖観音像と違いでっぷりと野太い感じの造りです。
角ばったお顔に、大きめの目鼻口、がっしりとした体躯とでも言うのでしょうか。
大振りな造形で野趣があり、ずしんと重みのある造りになっています。

小沼神社・十一面観音像...小沼神社・十一面観音像上半身
十一面観音像・上半身

小沼神社・十一面観音像頭部...小沼神社・十一面観音像頭部
十一面観音像・頭部

聖観音像が霊的なものを強く感じさせるのに対して、十一面観音像は地方的な土臭い仏像の匂いを感じさせるように思えました。

「こじんまりした社殿の中央に、二体一尊のような形で祀られた観音像の姿は、いかにもこの霊境にあるに相応しい。」

「いくつもの蝋燭の明かりの揺らめきの向こうに佇む観音像の姿は、その背後に眼に見えなぬ神の姿を映しているような、幻想を呼び起こす。」

自然と、そんな思いに浸ってしまいました。

いろいろと、お話を伺いました。
小沼神社は、地区の方々の神仏として、本当に大切に守られているようです。
我々の来訪に備えて、いろいろと拝観のご準備をいただき、宮司さんもわざわざこの日のために小沼神社まで遠いところを足を運んでいただいたようです。
小沼神社の御札とお守りまで頂戴してしまいました。


ある解説には、

小沼神社のある山は、麓の小沼地区では「死者の魂が登る山」と信じられている。
小沼社が水辺に立地することから、阿弥陀浄土への見立てを連想させる。

とありました。

麓の案内板には、(私は見ていないのですが)

小沼神社は小沼観音堂とも呼ばれ、ここ小沼山の山頂にあります。
昔は、神社前の沼に中島があり、それの6尺(1.8m)幅の反橋が架けられ、ここを渡ってお参りしたと言われています。

と書かれているそうです。

もう一度、社殿の外に出て、鏡のような水面の緑濃い色に染められた小沼、その周りを囲む鬱蒼とした杉林を眺めてみました。

小沼と小沼神社
小沼と小沼神社

確かに、この景観は、「神仙境、幽玄境」という言葉がそのまま当てはまりそうな霊境空間だなという気がしました。

神が降り立つ地、神が坐します、というに相応しい。
ほとけの浄土を想念させる、というに相応しい。

此処は、そのような気持ちにさせる場所だと思いました。


突然、想定外の霊境空間を目にして、感動が増幅しすぎて、筆が走り過ぎてしまったようです。
私にとっては、本当に久方ぶりの「心洗われる」時間でありました。

・鬱蒼とした杉林の山中に突然現れる空間、
・鏡面のような水をたたえた、緑深く染められた小沼
・小沼の奥に、ポツリと佇む神社の社殿
・社殿に静かに佇立する、神仏習合の観音像
・神社をしっかり守る地区の人々と女性の宮司さん

これら全てが相俟って、心惹かれる霊境空間を創り出しているのだと思います。
どれが欠けても、惹きつける力が喪われるような気もします。

七夕の日に訪れた、小沼神社は、

「心洗われる」
「心揺さぶられる」

私を久方ぶりに、そんな気持ちにしてくれました。

後ろ髪をひかれる想いで、小沼神社を後にしました。
是非とも、またチャンスを見つけて、訪れてみたいものという思いで一杯です。


この続き【その2】では、
二体の観音立像の制作年代や造形の特色などについて、専門家の意見などをご紹介しながら、考えてみたいと思います。

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  • 2017/10/04(水) 18:46:14 |
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