観仏日々帖

新刊・旧刊案内~「ほとけを造った人びと」


「仏像の歴史」ではなくて、「仏師の歴史」をテーマにした本が、出版されました。



「ほとけを造った人びと~止利仏師から運慶・快慶まで~」 

根立研介著
2013年8月 吉川弘文館刊 【259P】 1800円

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本の帯のキャッチコピーには、このように書かれています。

「仏師とは何者か? なぜ「ほとけ」を彫ったのか? 
造り手から見た新しい仏教史」

日本彫刻史とか日本仏像史といった本は、平易な入門書から専門的な研究書まで、数えきれないほど出版されています。
仏像ブームなのか、最近、どんどん刊行され、書店の棚を賑わせているようです。
つい最近も「日本仏像史講義」山本勉著(別冊太陽40周年記念号)という、立派な本が出されました。

一方、仏像の制作者である「仏師」に焦点を当て、仏師について語った本は、そう多くはありません。
それでも、止利仏師、定朝、運慶、快慶といった、日本の仏像史上に大きな名を残した、偉大な仏師たちを、それぞれ個別に採り上げた本は、まだ結構あるのですが、
日本の仏師について、その流れを追って通史的にその歴史を採り上げた本は、あまりないように思います。


この「ほとけを造った人びと」という本は、
副題にあるように、止利仏師から運慶・快慶まで、即ち飛鳥時代から鎌倉時代までの仏師の姿や、彼らが率いた工房の活動などを、歴史を追って語っています。

「これは、なかなか興味深く、面白そうな本だ」

と思って、早速購入しました。


まずは、目次をご覧ください。

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ご覧のとおりで、日本の仏師といわれる仏像製作者の知られた名前や、流派の名前が、次々と登場します。
飛鳥から鎌倉末までの、仏師の通史概説として書かれていることがよく判ります。

著者の根立研介氏は、文化庁美術工芸課に籍を置かれた人ですが、現在は京都大学大学院教授の任にあります。

仏師関係の著書も多く、
「運慶―天下復タ彫刻ナシ」(ミネルヴァ書房)
「日本中世の仏師と社会」(塙書房)
といった著作があります。


この本は、吉川弘文館の「歴史文化ライブラリー」の一冊(第366巻)として出された本なので、どちらかといえば、やさしく気楽に愉しく読めるのではないかと思って読み始めました。
仏師の歴史など良く知らない人にも、入門書的にやさしく読めるのではないかと思ったのです。

とことが、読み始めると、少々予想と違いました。
わかりやすく、思いきって大胆に割り切って書いてあるというよりも、すごくきっちりと書かれているのです。
書かれている文章は、それぞれ研究者の諸説をきっちりふまえて、誰の説であるかとか、誰が指摘した・実証したということに、必ずふれながら、解説、説明が進められています。

例えば、平安初期木彫造仏を解説した個所は、こんな感じです。



「平安時代以後造像の中心となる木彫像は、奈良時代の後半から製作がさかんになると考えられていた木心乾漆像の心木が発展していったものという見解(丸尾、1922年)が、半世紀ほど聞までは定着化していたところがあったからである。

しかしながら、近年の彫刻史研究では奈良時代の木彫の評価が急速に進んでいる。

そのきっかけを作ったのが、久野健氏の見解(久野、1957年)である。
久野氏は、『日本霊異記』に収められた俗人、私度僧にまつわる木彫像製作の説話から、官営工房以外の民間の造仏においては木彫像の製作がかなり行われ、こうしたことを背景に京都・神護寺薬師如来立像のような平安時代の冒頭を飾る造形的完成度が高い木彫像が生まれてきたとした。

奈良時代の木彫像の再評価は、行基の仏像製作といった伝承を尊重する井上正氏の研究(井上、1986年)等によって、よりいっそう議論が深化していった。
ただ、どの像を奈良時代の像と見なすかといった、遺品の具体的な検証といったことになると見解の一致をみないことも多い。」


仏師や、仏所工房などについても、このような感じです。
きっちり先行研究にふれられながら、解説が進められています。

また、平安時代以降は、数多い造仏記録や、造主の諸貴族の名前、今は亡き寺院の名前、それらの出典となる古記録の名前などが、あふれるように挙げられながら文章が進みます。

通史的概説書のボリュームのページ数の中に、このように盛り込まれているので、結構、骨のある内容になっています。
仏師の話となると、あまりよく知らない私にとっては、それなりに気合を入れて読まないと、著者の云わんとするところを理解するのがシンドイという感じがしました。
さらりと気楽に読めるという予想に反して、事前知識が少ないと、歯ごたえが結構あるように思えました。

その分、「内容の中身が濃く、きっちり論ぜられた本」だということなのだと思います。

詳しい内容は、実際に読んでいただくとして、私が、大変印象に残ったのは、
著者が、仏師というものを考えるうえで、「聖なる造形を造る宗教者」という側面を、意識して書かれていることです。

著者は「あとがき」で、このように記しています。


「仏師は、平安時代半ばからその主要な者たちは、形式的には僧籍を有するようになり、聖なる造形を造る宗教者という側面も無視できなくなる。
そのいっぽう、先にふれたように手工業者であるので、利潤の追求も行っている。
要は、仏師というのは、大変複雑な性格を有する人々であり、さまざまな側面をのべることはかなりの困難さを伴うことに改めて気づかされたのである。

特に重要なのは、建前としての側面もあるが、彼らが聖なる造形を造る人々であった意味であろう。

このことは、他の手工業者と仏師を区別する極めて重要な鍵であるが、こうしたことはなかなか資料からはうかがうことが出来ないのである。
本書では、このことをある程度意識して執筆しているが、なかなか書き切れていないことも事実である。

近年は、仏師のこうした側面にも光を当てようとする研究も始まってきているように思われる。
本書が、そうした試みに対して少しでも刺激を与えられたら幸いである。」


本文中にも、定朝の師(親?)である康尚が、仏師として初めて「講師」という僧職を与えられたことについて、このように述べられています。


「そこで注目したいのが、聖なるものは聖なる僧によってのみつくられ得るという観念がこの時期定着していった可能性があることである。

要は、時代環境として仏師は僧籍を有する者が多くなり、その傾向を助長したのが聖なるものは聖なる僧によってのみつくられ得るといった観念の広まりだったのではないだろうか。」


たしかに、仏師については、その工房や、社会経済的側面からとらえて論じたり、
仏像という彫刻作品の作者としての芸術的技量や創造力といった観点から論ぜられたりしていますが、

「聖なる造形を造る宗教者」

という側面からは、余り論ぜられていないような気もします。

ご一読をお薦めする本です。



ついでに、「仏師」をテーマにした既刊本を、ご紹介しておきたいと思います。
より深く興味を持たれた方に、ご参考になればと思います。


仏師の通史的な解説書としては、この3冊をご紹介します。

「日本の彫刻~歴世の名工を追って~」 小林剛著 
1965年 至文堂刊 【156P】 490円


歴代の著名な仏師をラインアップし、それぞれの事績を古記録から辿ると共に、残された個別の作品について解説された本です。


「仏師の系譜」 佐藤昭夫著
1972年 淡交社刊 【243P】 1000円


飛鳥時代から江戸時代までの著名な仏師とその一門、仏所などの活動やその作品を辿りながら、仏師という作家の姿を浮き彫りにしようと解説されています。
判りやすく平易で、読みやすい内容だと思います。



「日本の仏像と仏師たち」 宇野茂樹著
1982年 雄山閣刊 【191P】 6200円


造仏工、仏師の歴史を丁寧に辿った本ですが、解説書というより論考という方があたっているようにも思います。
はしがきに
「この拙著は、仏師系譜を述べるだけを本旨としたものではなく、仏師社会をも眺めながらその生活を考えていこうとした。」
と記されているように、仏師の生活という視点でも記されている処は興味深いところです。

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専門的研究書では、次の2冊をご紹介しておきます。


「日本彫刻史作家研究~仏師系譜をたどって~」 小林剛著
1978年 有隣堂刊 【491P】 7000円


小林剛氏が「日本彫刻作家研究の一節」の副題のもとに、研究誌に発表された論文を集めたもので、そのほとんどが、氏の博士論文「日本彫刻史における仏師の研究」に所収されているそうです。
日本の古い彫刻作家について、広く資料を渉猟し、現存する作例について論究するという構成になっています。
小林剛氏の没後に出版されました。
先に紹介した、「日本の彫刻~歴世の名工を追って~」は、これの平易なダイジェスト版と云って良いものだと思います。


「日本古代仏師の研究」田中嗣人著 
1983年 吉川弘文館刊 【385P】 7000円


日本思想史、日本美術史の研究者である、田中嗣人氏の博士論文を、単行本として刊行されたものです。
仏師に関連する詳細な文献研究がなされていますが、ちょっと難しすぎて歯が立たないという感じです。


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