観仏日々帖

古仏探訪~三重県津市・延命寺 薬師如来坐像


もう10ヶ月ほど前になりますが、昨年(2012年)9月に三重県の観仏に2泊3日で出かけました。

パラミタミュージアム展覧会ポスター
ちょうどその時に、三重郡菰野町のパラミタミュージアムで、「南都大安寺と観音さま展」が開館10周年記念展として開催されていましたので、これに合わせて「三重の平安古仏を中心とした古仏探訪」に、同好の方々と出かけることにしたのでした。

三重の仏像は、近畿圏なのですが、奈良・京都・近江の素晴らしい仏像たちの影に隠れて、影が薄いようで、一般にはあまりよく知られていないように思います。

そのなかでも有名処の名の知れたところを挙げると、
亀山市~慈恩寺・阿弥陀如来立像、津市~光善寺・薬師三尊像、松阪市~朝田寺・地蔵菩薩立像、多気郡~普賢寺・普賢菩薩坐像、伊賀市~観菩提寺・十一面観音立像
あたりになるのかと思います。

今回は、パラミタミュージアムの展覧会には、三重県のあまり知られていない平安古仏が出展されていましたので、探訪先も少々マイナーな県指定や市指定の平安古仏を出来るだけ採り入れて、
「三重の知られざる平安古仏を巡る」
こんな気分の観仏旅行にして、回って観ることにしました。

パラミタミュージアムに出展された、三重県の平安古仏は次のようなものです。

パラダミュージアム展示・三重の平安仏


そして、実際の古寺探訪では、次のような寺々を巡り古仏を拝しました。

201306ennmeiji17.jpg

もう数度目の探訪という仏像もいくつかありましたが、結構たっぷりと三重の古仏を愉しむことが出来ました。

これらの古仏の中から、私がちょっと注目した仏像、興味深く感じた仏像を、いくつかご紹介したいと思います。



今回の探訪で、最も注目し、魅力を感じたのが、延命寺・薬師如来坐像です。

この薬師如来像のことは、この古仏探訪スケジュールを考えるまで、全く知りませんでした。

延命寺薬師如来坐像(仏像東漸展・図録掲載写真)何処の仏像を訪ねてみようかと、2003年(平成15年)に四日市市立博物館で開催された「仏像東漸~伊勢・伊賀、そして東へ」展の図録を見ていましたら、右の写真の仏像を見つけました。
「平安前期」の仏像として掲載されています。

解説によると、「無指定」の仏像です。
「平安前期の無指定仏!」、それは興味津々です。

何やら迫力がありそうな感じがしましたが、無指定ですので、あまり大きな期待もせず、「まあ、ついでに行ってみるか」と、スケジュールの中に組み込んだのでした。

余談ながら、この「仏像東漸~伊勢・伊賀、そして東へ」展は、三重県の見どころある古仏が一斉集合したと云って良いほどの、素晴らしい展覧会で、今回探訪の多くの仏像も出展されています。
私は残念ながら、この展覧会を見逃してしまいました。
図録を眺めると、「惜しいことをした。無理してでもいっておくべきだった。」と、悔やむことしきりです。


延命寺は、津市一志町井関というところにあります。

延命寺境内JR津市駅から西南に10キロぐらいの処です。
事前に拝観のお願いを差し上げた時も、快くご了解をいただきました。
訪ねると、地方の町中の古い住宅が並ぶ中に、目立たずひっそりとある小さなお寺です。
像高108㎝もある大きな坐像が祀られているようなお寺とは思えない様子で、古くて少々大きめの住宅が、そのままお寺になっているというような感じです。

早速、薬師如来坐像にご対面です。

延命寺本堂奥様にご案内頂きましたが、ご覧のような、お堂というには随分みすぼらしい建物に、安置されていました。

覗いてみると、「バリバリの金ピカ」に仕上げられています。
古色を留めた様子など微塵もありません。
観る前から「こりゃ、ダメか!」と、少々がっくりという処です。

近づいて、薬師如来像を間近に拝してみると、びっくりしました。

延命寺薬師如来坐像・厨子

金ピカですが、なかなかのすごい迫力で、迫ってくるのです。
「まさか!」という言葉を発しそうなのを思わず呑み込んで、そのパワフルなお姿に魅入ってしまいました。

延命寺薬師如来坐像


延命寺薬師如来坐像
延命寺  薬師如来坐像

全体の体躯は、誠に堂々として太造りです。
肉付きは豊かですが締まりがあり、衣文も粘りがある強い表現です。
ダイナミックな量感や力強さを、躰から発散しているように思えます。
「威厳を感じる」そんな言葉が、そのまま当てはまりそうです
新しい金箔で覆われてしまっていて、金ピカなのが本当に惜しまれます。

延命寺薬師如来坐像・上半身....延命寺薬師如来坐像・頭部
延命寺 薬師如来坐像・顔部

この薬師像が古色のままであったなら、もっともっと凄い迫力があったでしょう。
たしかに間違いなく平安前中期の雰囲気を十二分に漂わせた仏像です。
そのなかでも、大変出来が良い像だと思いました。
強い精神性もみなぎっています。

私は、10世紀ごろの制作ではないかなと思いました。

「こんな仏像が、無指定のまま眠っていたのか?」と、本当にびっくりです。
皆さん、どのように感じられたでしょうか?
現在は、無指定ではなくて、2005年(平成17年)12月に、津市指定文化財にやっとのことで指定されたということです。

この像が展示された「仏像東漸展」の解説には、このように書かれています。


【平安時代前期】
境内の薬師堂に安置される薬師如来坐像である。
前頭、正中を中心に頭から腹にかけて幅15センチ、左手首先。右手前膊、背面材、両脚部に別材を複雑に寄せ、割首を施すがいずれも後補。
当初の構造を復元的に見れば、両肩を含む頭体、体幹部をヒノキの一材より彫出し、後頭部および、体幹部を上下二段に分けて背刳りを施す。
後補箇所が多いが、頭部のほとんど。両肩から右上膊部.左腕などには、よく当初の姿を残す。
量感豊かな体躯に奥行のある頭部をあらわし、威相を示す面貌や、粘りをもった強い衣文線など、和具観音堂木造十一面観音菩薩立像より強い作風をもつ。

この薬師像は、いつ頃平安古仏として見出されたのでしょうか?
近年は、展覧会に出展されたり、文化財指定されたりしていますが、それまではどのように考えられていたのでしょうか?

やはり、金ピカにべったり塗られているのが災いして、時代が大きく下がる像として考えられていたのかもしれません。

そんなことに思いを巡らせていると、昨年重文指定された、奈良・大和郡山の弥勒寺、弥勒仏坐像のことを思い出しました。

大和郡山・弥勒寺弥勒仏坐像右の写真のとおりです。

この像は、像高147センチのおおきな半丈六像ですが、後世の朱衣金體の厚い上塗りが災いし、またお寺が戦国時代の創建であったこともあって、最近まで近世の仏像だと思われていました。
2009年(平成21年)の奈良県教育委員会の調査で、10世紀ごろ制作の見事な平安古仏であることが判明したのです。
それからはあっという間のスピード出世で、重要文化財指定されるに至ったのです。
2012年に重要文化財指定され、東京国立博物館や奈良国立博物館に展示されましたので、覚えてらっしゃる方も多いかと思います。

(この像については、以前観仏日々帖で採り上げておりますので、参考にご覧ください)


やはり、金ピカの厚塗りは、仏像彫刻の本来の出来の良さを大きく見誤らせてしまう、大きな要因になるようです。
しかし、この延命寺の薬師如来坐像は、金ピカの厚塗りを克服して、堂々たる量感や力強さ、強い精神性のオーラを内から発散しているように、私の目には映りました。
後世の修復も、上手になされているようで、像全体を鑑賞するには、あまり気になりません。


もう一度、薬師如来のお姿をしっかりと見つめてみました。
お顔の造形、表情が、迫力十分で、強い精神性を感じ魅力的なのです。
吊り上った目が鋭く、厳しいものがあり、ちょっと尖がった顔で、射すくめられるような凄みを感じます。

延命寺薬師如来坐像・顔部....延命寺薬師如来坐像・顔部
延命寺 薬師如来坐像・顔部

「仏像東漸展」の解説には、

威相を示す面貌や、粘りをもった強い衣文線など、和具観音堂木造十一面観音菩薩立像より強い作風をもつ。
とありました。

和具観音堂十一面観音立像....和具観音堂十一面観音立像・顔部
和具観音堂 十一面観音立像

和具観音堂・十一面観音像は、パラミタミュージアムに出展されており、観てきたばかりです。
クセの強い仏像で好き嫌いがありそうですが、印象に残る仏像です。
お顔の感じは、確かに似ています。
和具観音堂像の方が細面のようですが、眼が吊り上って鋭く、強く鼻筋が通って、尖った感じの面貌は、よく似ています。
同じ系統の仏師の手によるものなのでしょうか?

こんなタイプのお顔は、あまり見たことがありません。
このほかにも、こんなお顔の仏像があるのでしょうか?
三重という地の地域性のある表現なのでしょうか?
こんな威相の顔を、これだけ力感みなぎらせて彫れるのは、なかなかの腕の仏師であったのだと思います。

ところで、延命寺・薬師像の来歴は、どのようなものでしょうか?
これだけの立派な仏像ですから、きっと由緒のある古いお寺に祀られていたに違いないでしょう。

ご住職の説明によりますと、

この薬師如来像は、伊勢を支配していた北畠氏の多気北畠氏城館があった多気の地に安置されていたのだそうです。
多気は、今は三杉町といい、延命寺の在る一志町の南西15キロほどにあります。
戦国時代、北畠氏は織田信長に滅ぼされますが、北畠家家臣であった井関・松本家の先祖が、薬師像をこの地に持ち帰り、お祀りするようになった

とのことでした。


延命寺の薬師如来坐像は、今回の三重観仏旅行の中で、一番の収穫の仏像でした。
これだけ堂々として、力強く迫力ある平安古仏に出会えたことに、結構感動しました。

修理、修復が多く、金ピカではありますが、これだけの見事な出来の仏像が、やっとのことで市指定文化財では、余りに気の毒というのが実感です。
重要文化財とまではいかないものの、せめて県指定にでもしても良いのではないでしょうか。
そして、粗末なお堂から、もう少し防災対策されたお堂に大事に安置されるのを願うばかりです。

境内庭先には、古墳時代の「石棺」が遺されていました。
県指定文化財になっており、「延命寺の石棺」と呼ばれ、延命寺は薬師像よりもこの石棺でよく知られているようです。

延命寺・石棺
延命寺の石棺

延命寺の奥様他皆様には、大変親切にご案内頂き、お世話になりました。
ご近所の法要に出られていたご住職も、お忙しきなか一時お戻りいただいて、由緒などのお話をやさしく伺うことが出来ました。

望外の、素晴らしく魅力的な平安古仏に出会うことができた感動と、やさしく親切にしていただいたお寺の皆様に心より感謝しつつ、満足感に浸されて延命寺を後にしました。

コメント

パラミタミュージアムの観音さま展は私も行きました。
個性的で素晴らしい観音様が多数出展されていて、大変良かったです。

三重県は、なまじ京都・奈良に近い上、
滋賀の観音様のようなキャッチーな特色もないため、
割りを喰っているような感じがします。

延命寺の薬師如来像は、写真で見る限りでは、
目が奈良博所蔵の国宝薬師如来像に似ていると思いました。

  • 2013/06/09(日) 19:19:56 |
  • URL |
  • とら #VBkRmpN2
  • [ 編集 ]

Re: タイトルなし

とら様

コメント有難うございます。
「三重の仏像は割を食っている」というのは、その通りですね。
延命寺の仏像の顔は、実物を見ておりますと、奈良博薬師の顔よりも、はるかに野性味があるという感じがしました。
眼の切れ長に孤を描くところはたしかに似ているのですが、延命寺の眼はすごく吊り上った感じに造られています。
そのせいで、厳しく射すくめられるように感じるのではないかと思います。

もしまだ拝しておられないようでしたら、一度お尋ねください。
なかなかいいですよ。

  • 2013/06/12(水) 08:56:11 |
  • URL |
  • 神奈川仏教文化研究所 #-
  • [ 編集 ]

>厳しく射すくめられるように感じるのではないかと思います。

かなり印象的なお顔なのですね。
三重県は厳しいお顔の仏像が多いのかも。

筆頭は、もちろん(?)観菩提寺の十一面観音様です。
白洲正子展で拝見したときは、
お顔は遠くを見ている感じで、目が合うという感じはなかったのですが、
魅入られて像の前から立ち去りがたい感覚に襲われました。

確か、御開帳がもうそろそろだということで、
またお会いしたい方です。
延命寺もぜひ立ち寄りたいですね。

  • 2013/06/13(木) 23:03:24 |
  • URL |
  • とら #VBkRmpN2
  • [ 編集 ]

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