観仏日々帖

古仏探訪~兵庫・多可郡 楊柳寺 楊柳観音・十一面観音像(その1)


播磨、楊柳寺には、

「大変気になる仏像、惹きつけられる仏像」

が、2躯あります。

1躯は、不可思議な仏像だが、その存在感がなんとも気になる「楊柳観音立像」。
もう1躯は、吐きつける霊気に思わず後ずさりしてしまいそうな、「十一面観音立像」です。

楊柳観音立像.....十一面観音立像
楊柳観音立像                        十一面観音立像      .


この2躯の仏像を初めて拝したのは、今から7年ほど前のことになります。
その時、2つの仏像から受けたインパクトは結構強烈なものがあり、それ以来、ちょっと大げさに言うと、「頭にこびりついて離れない仏像」なのです。


今回、鶴林寺秘仏御開帳に播磨を訪れることになりましたので、どうしても又この仏像を拝したくなり、楊柳寺をまで足を延ばしました。

楊柳寺は、多可郡多可町八千代区大和という処にあり、加古川・鶴林寺から北に約25キロ、車で1時間ぐらいのところにあります。

柳山楊柳寺は天台宗の山寺で、地元では「柳の観音さん」と呼ばれています。
寺伝によると、白雉2年(651)インドより来朝した法道上人の開創といい、法道仙人が山麓の柳の大木から光りを放っている菩薩を見つけ、その尊像を柳の木に刻んだという故事があることから、山号を柳山と称するそうです。

この南播磨の地は、法道上人開基と伝える寺々が数多く存在しています。
有名な法華山・一乗寺をはじめ、朝光寺、光明寺などは古刹として知られています。
楊柳寺も、この法道上人開基伝説を持つ古寺の一つです。
法道上人は架空の人物であったという説もあるようですが、この地に奈良時代以前に開基された古い歴史を持つ寺々が存在することは間違いないようです。

仁王門....楊柳寺解説看板
仁王門                            楊柳寺解説看板    .

楊柳寺をめざすと、目印とも云える立派な仁王門が眼に入ってきます。
この仁王門をくぐり、参道の急な石段を登ってしばらく行くと杉木立の合間に楊柳寺本堂が見えてきます。

参道石段..本堂
参道石段                                  本堂 

老住職のご案内で、本堂内陣に上げてもらいました。内陣
御本尊は、普段は秘仏として厨子が閉じられています。

ご住職の般若心経の読経に共に掌を合せた後、いよいよ厨子を開いてのご拝観です。
お厨子の扉は我々が立ち上がった目の高さよりもまだ高いところにあり、ご住職が梯子をかけ厨子まで登って、扉を開いていただきました。


本尊厨子安置仏像
本尊厨子安置仏像

お厨子の中には、御本尊の楊柳観音像(像高183㎝)、両脇には二躯の十一面観音像が祀られています。
楊柳観音像は、ご覧のとおりの不思議な仏像です。
この像容を、どのように言葉で表現したらよいのか困ってしまうのですが、

「なんだ、この仏像は? 地方仏には変わった仏像もあるね」

というふうに捨て置いてしまえない、「得も言われぬ存在感」を私は感じてしまうのです。
そこに漂わせている空気に「神秘的な存在感」と強く感じるのです。


楊柳観音像......楊柳観音像

その不思議な像容は、我々が勉強した日本仏教彫刻史の世界で、何時頃の制作の仏像かを考えようとすると、よくわからなくなってしまいます。
杏仁形の眼やアーケイックスマイルを思わせる唇、品字状に似た腹部に垂れる条帛端の衣文、平面的な造形表現、といった特徴は、飛鳥白鳳仏の特徴を思い起こさせます。
一方で、異常に胴長で身体バランスは崩れていますし、ボリューム感も扁平という感じで彫口もあまり鋭くありません。
彫刻の出来としては、如何か?と、首をかしげるちょっと変な仏像です。


楊柳観音像..............楊柳観音像・側面

ごく普通に考えれば、
「平安時代に、飛鳥白鳳仏の古様を倣って制作された地方的作例」
というふうになるのでしょうか?

造形バランスも良くなく、彫技も今一歩の模古的な作例ということになるのでしょう。

実は、楊柳寺には7躯の平安古仏が遺されていますが、他の6躯が県指定文化財に指定されているのにもかかわらず、この楊柳観音像だけが指定されていません。
楊柳観音像は、かろうじて多可町指定文化財に指定されているだけです。
この文化財指定状況を見ても、この仏像の不可思議さと評価の難しさを物語っているようです。

しかし、この楊柳観音像は、文化財指定でも一段ランクの落ちる彫刻の仏像としてしまうのには、私は違和感を覚えてしまうのです。
繰り返しになりますが、
造形上の出来の良し悪しを超えた、「不思議な存在感」「神秘的な存在感」を感じてしまうのです。
オーラとでもいうのでしょうか?

ところで、この仏像、どのように見られているのでしょうか?
この像について論じた人はほとんどないようですが、コメントされたものをピックアップしてみました。

兵庫の仏像に詳しい神戸佳文氏(兵庫県立歴史博物館学芸課長)は、


「本尊は楊柳観音とされる立像で、内刳りのないカヤの一木造りである。
条帛や裳の折り返しにすこぶる古様を見せ、古仏を写した平安中期の作と考えられる。」
(兵庫県南部の仏像~「仏像を旅する~山陽線」所収)

楊柳観音像地方仏探訪、紹介で多くの著作のある丸山尚一氏は、このように述べています。

「カヤの一木彫り、銀杏形の眼、突き出た唇、やはり不思議な表情である。
胴長で腰下が短く均整のとれた像ではないが、それでいてどんとした安定感がある。
拝しながら、円空の像が浮かんだ。円空が飛鳥仏に出会ったあとにつくった一連の像である。
この像にも、丸彫りの意識より、平板に、レリーフ的に処理しようとする作者の意図が明確にある、と思った。
しかし、この像が平安期より早く造られたものかどうか、やはり明確な答えは出てこない。」
(「地方の仏たち~近畿編」所収)


この楊柳寺の仏像に注目し、いくつかの研究論考を発表されているのは、井上正氏です。
井上氏は、本像の「古様さと神秘性」に着目し、上代の古密教彫像の一例としてとらえています。
法道上人が白雉2年(651)に開基したという楊柳寺の寺伝を信頼し、楊柳観音像はその頃、即ち飛鳥白鳳時代に制作されたものと考え得るという、誠に大胆な説を発表しています。

井上氏は、このように論じています。

楊柳観音像・頭部
「不可思議な印象をもつ像である。
異様に丈高い天冠台の下に、何かに驚いたような表情の顔がある。
よく見ると、鼻や唇が鋭く突き出る神秘相だ。
全体のプロポーションはがたがたである。胴と大腿部が異様に長く、これに接する胸と足脛部とがつまってみえる。

ギリシア・ローマ的な彫塑観からすれば、まさに『愚作』といってもさしつかえない。
そのことを容認した上で、全体をつつむ神秘感は、西欧古典のそれにはみることのできない異質な世界へわれわれを導くこともまた認めねばならない。

これは、法隆寺夢殿救世観音と共通するものを感じさせる世界だ。

楊柳観音像・顔部彼においてはすべての造型が神秘の美におもむくが、ここでは一種の不協和がよどむ。
造型上の欠陥は指摘できるが、それを矯正したからとてどうだというのだろう。
常識的な美学のようなものは霊威の観音を支配する資格はない~そう主張しているように
さえ思える。」

「こうして、本例の様式年代は、ほぼ飛鳥~白鳳の間に設定することができるように思う。
飛鳥様式の名残が各所に認められ、・・・・・・インド的な新様式の影響がまったく見られない点からすると、法道仙人の自刻の寺伝はとも角としても、白雄2年(651)創立の伝えは、きわめて自然に、本像の製作時期を物語っているように思われるのだがどうであろうか。」
(「古仏~彫像のイコノロジー」所収)

この像の特異性を、鋭く追及した論考です。

いずれの考え方が妥当なのかどうかは、私にはわかりませんが、丸山氏も、井上氏も、この楊柳観音像には、「不思議な神秘性や、惹きつける魅力」を感じさせるものがあると強く感じられています。
私も、そのように感じます。


私は、この像がカヤの一木彫で蓮肉まで一材から彫り出されていることもあり、平安前期をあまり下らぬ頃に造られた仏像なのではないかと思っていますが、造形的なバランスをこれだけ崩しながらも、ただならぬ存在感や神秘性を漂わせているワケ・そのオーラの源は、どこにあるのでしょうか?

今回も、見上げる厨子の中に佇む楊柳観音像を、何度も何度も食い入るように見つめながら、「不可思議な仏像だが、その存在感がなんとも気になる仏像」という思いを新たにしました。


楊柳観音像と同じような飛鳥時代の古様を留める不思議な仏像に、一度だけ出会ったことがあります。

滋賀県草津市にある「川原観音堂の十一面観音立像」です。

ヒノキの一木彫ですが、なんとも不思議な仏像です。
楊柳観音像と同様、制作された時代が想定しにくい変わった仏像です。
楊柳観音像を拝していると、どうしても、かつて拝したこの観音像のことが頭に浮かんできます。
川原観音堂十一面観音立像
川原観音堂十一面観音立像

この観音さまは、和銅4年(711)勧進の天神社の本地仏として伝えられたもので、川原十人衆と呼ばれる地元の方々に、大切に守られて祀られています。
草津市の「市指定文化財」になっています。

川原観音堂に赴き、観音さまを拝した時も、不思議な感覚におそわれました。
飛鳥時代の仏像の特徴にみられるような姿かたちに倣ったような造形です。
写真をご覧になれれば感じられると思いますが、決してすぐれた造形ではないけれども、特異な古様をとどめています。
何とも言えない違和感と、そこに漂う存在感のようなものでした。

ただ、楊柳観音像から漂うオーラとかインパクトのようなものは、さほど感じなかったのも事実です。

川原観音堂十一面観音立像・側面............川原観音堂十一面観音立像・背面

近江の仏像研究で知られる高梨純次氏は、本像が出展された「近江路の観音さま展」図録の解説で、このように述べています。


「県内に伝わる、数多くの尊像の中でも、抜群の個性を誇り、合理的な解釈を拒否している。
本像と近い作例を無心に探るならば、あるいはその卵形の顔の輪郭や扁平な側面観からして、法隆寺夢殿救世観音像などもあげられよう。

また説かれているように、『刀に心得のある僧侶などによって十二世紀後半に造像』とする解釈も現れよう。・・・・・・・・・・

来迎寺像(滋賀県野洲市・来迎寺聖観音像)は9世紀初頭の作とみられるが、本像も同じころに造像された可能性が大きい。・・・・・・・・
来迎寺像より乏しい前後の奥行などからして、古像に準拠している可能性もあり、少し遡っての年代を設定するべきかもしれない。
一層の検討を要しよう。」


私は、この二躯の観音像の他には、似たような古仏に出会ったことはありません。
2躯共に、「不可思議な仏像」と云って良いのだと思います。
しかし、いずれの像も、なんとも言えない違和感と存在感を漂わせています。
平安時代前期頃には、このような飛鳥白鳳期の古様を模した木彫像が造られることがあったのでしょうか?


謎の仏像と云って良いのかもしれません。
気になる仏像、興味をそそられる仏像です。

〈続く〉


(なお、掲載写真については、出版物、多可町・那珂ふれあい館HPから転載させていただきました。)



コメント

模古作

いつも楽しく読ませていただいています。

楊柳観音はとても不思議な仏像で私も気になっています。
平安時代の模古作というのが穏当な解釈でしょうけど、
そう簡単に割り切らせてくれないところが魅力でもありますね。

ところで、模古作というと、私は神奈川県海老名市龍峰寺の千手観音が気になっています。
平安初期を模した鎌倉時代の仏像で、お顔は確かに鎌倉の様式で、
体が古い様式という、模古作ではありがちなタイプなのですが、
特に下半身がまさに平安初期そのもので、まったく違和感がありません。
(平安というより、大安寺像といった奈良時代の様式に近いようにも見えます。)

卓越した鎌倉仏師ならば、違和感なく古い様式を模せるのかなあと思いつつも、
どうにもしっくりこない感じにさせられます。

  • 2013/01/12(土) 19:55:35 |
  • URL |
  • トラ #VBkRmpN2
  • [ 編集 ]

Re:【模古作】コメント有難うございます

コメント&情報有難うございます
まだこの記事のデータアップ途上で、写真を全部掲載していない状況で下が、速攻でコメントを頂戴しました。

海老名市龍峰寺の千手観音は、私はよく知りませんでした。
早速、調べて写真を見て見ました。重要文化財なんですね。
確かに下半身の衣文は、奈良様をとどめた平安初期風という感じがします。
奈良末かもと云われている、広隆寺・不空羂索観音の下半身の衣文や造形に似た処があるようにも思えました。
「仏像集成」には、
「一木造りの構造や古式の形制・衣文表現から玉眼を除き平安後期とする説がある。・・・・
鎌倉期に入っての古制にならった造像と考えるのが妥当であると思われる。」
と記されていました。
私も、写真では、そのように感じました。

模古的な仏像というのは、折々見かけるようです。
例えば京都では、三千院の救世観音半跏像や盧山寺の如意輪観音半跏像などが、鎌倉時代の飛鳥古仏の模古作品として思い出されます。

私が、楊柳観音に強い興味を覚えるのは、こうした模古作には見られない、強い精神性、神秘性といったオーラのようなものを発散させていると感じる点です。
川原観音堂十一面観音像にも、楊柳観音ほどではないものの、そうしたものを感じさせるものがあると思います。
その辺が「不思議な仏像」と、気になり、惹きつけられる処となっています。

有難うございました。
これからも、何卒よろしくお願いいたします。

  • 2013/01/13(日) 21:51:21 |
  • URL |
  • 神奈川仏教文化研究所 #-
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  • 2013/09/30(月) 01:16:56 |
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