観仏日々帖

トピックスに京都・新町地蔵保存会の地蔵像、3Dプリンタ・レプリカをお堂にお祀り 【2017.06.24】


「信仰の対象として地元の人々に守られる仏像」と「仏教美術・文化財としての仏像」との折り合いをつけることの悩ましさ、難しさについて、ちょっと考えさせられてしまうニュースがありました。


9世紀の一木彫像で、重要文化財に指定され、京都国立博物館に預託されている、「新町地蔵保存会の地蔵菩薩坐像」が、この度、3Dプリンターで精巧なレプリカが制作され、レプリカの方をお堂にお祀りすることになったという話です。



【18年前の調査で発見され、3年前、重文指定となった新町地蔵保存会・地蔵像】


この地蔵菩薩像、皆さんも、京都国立博物館の仏像陳列に、展示されているのをご覧になった方も、多くいらっしゃるのではないかと思います。
9世紀後半の制作とみられ、地蔵菩薩の坐像としては広隆寺講堂・地蔵菩薩像に次ぐ古例で、なかなかの迫力ある優作です。

新町地蔵保存会・地蔵菩薩像(9世紀・重要文化財)
新町地蔵保存会・地蔵菩薩像(9世紀・重要文化財)~像高47.1㎝

実は、この地蔵像、京都下鴨(左京区下鴨松ノ木町)の、4~5坪ほどの小さな地蔵堂に祀られ、永年、地元の人々によって大切に守られ、信仰されてきた地蔵さまだったのでした。

1999年頃の文化財調査で、平安前期の制作の一木彫像であることが発見され、2002年に市指定文化財、2014年に重要文化財指定となりました。
2002年の文化財指定以来、京都国立博物館で保管、展示されています。



【貴重な文化財として博物館預託となり、やむを得ずレプリカをお祀りすることに】


永年この像をお守りしてきた地元の人々にとっては、文化財指定となったおかげで、お堂から肝心の仏さまが、いなくなってしまうことになってしまいました。

新町地蔵保存会・地蔵菩薩像が祀られていた、町の小さなお堂
新町地蔵保存会・地蔵菩薩像が祀られていた、町の小さなお堂
(京都市左京区下鴨松ノ木町)


貴重な文化財の火災、盗難リスク対応として、博物館で保管管理されることになったのでした。
年に一度の「地蔵盆の日の里帰り」も、重要文化財指定以降は難しくなり、苦肉の策として、3Dプリンターによる模像をお祀りして、代替することになったという話です。



【NHK NEWS WEBで、地蔵様の「レプリカお祀り」のいきさつを報道】


このニュース、6/20付けの「NHK NEWS WEB~News up」に「地蔵菩薩を3Dプリンターで」という標題で、レプリカの里帰りのいきさつが掲載されていました。

記事の内容の一部をご紹介すると、次のようなものです。

「京都の世界遺産、下鴨神社にほど近い閑静な住宅街にある地蔵菩薩のお堂で、毎月、地域の人たちが集まって祈りを捧げてきました。
しかし、長年まつられていたお堂には、いま肝心の菩薩像がありません。
台座の上に置かれているのは、大きな写真パネルだけです。

地蔵像が博物館へ預託された後、厨子の前には写真が祀られている
地蔵像が博物館へ預託された後、祀られていた厨子には写真が置かれている

なぜ、写真だけになったのか、そのきっかけは京都市の調査です。
調査の結果、1000年以上も前の平安時代に作られた貴重なものだとわかったのです。
座っている地蔵菩薩像としては、国内で2番目に古い像だとされています。
そこで、京都市は平成14年、地蔵菩薩像を市の有形文化財に指定。
火災や盗難から守るため、菩薩像は国宝や重要文化財を数多く収蔵する京都国立博物館に移されました。

このためお堂には、地蔵の代わりに写真パネルが鎮座することになったのです。
それでも、毎年8月に行われる京都の伝統行事「地蔵盆」の時だけは元のお堂に戻されていましたが、2年前に国の重要文化財に指定されると、年に1回の里帰りもかなわなくなってしまいました。
長年親しんできた菩薩像が、写真だけではどうにも寂しい。
そこで、地域の人たちの思いに応える形で、本物そっくりのレプリカ作りが去年始まりました。
京都国立博物館がもっている3Dプリンターを活用して作成したのです。

新町地蔵保存会・地蔵菩薩像(左)とそのレプリカ(右)
新町地蔵保存会・地蔵菩薩像(左)とそのレプリカ(右)

・・・・・・・・・・・・・・   (3Dプリンターでの仏像レプリカ制作の難しさや、苦労話などの話の記事が続きます)

そして6月初旬、地域の人たちが初めて作業現場を訪れ、レプリカと対面しました。
本物そっくりの姿に、歓喜の声があがりました。
衣のひだにうっすらと積もったほこりも再現され、細部に施された工夫に、じっくりと見入っていました。
そして、およそ1年の作業を経て完成したレプリカは6月13日から、京都国立博物館で、実物と並べてお披露目されています。

レプリカは、8月の地蔵盆に合わせて、地域の人たちが待つお堂に運ばれます。
そして、これからずっと、実物の代わりに安置されることになっています。
保存会の会長を務める矢島隆さんは、
「地域の宝として、これから大切にしていきたいです。関係者の皆さんに本当にお礼が言いたいです」と話していました。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1000年の時を超えて、地域で親しまれ、残されてきた地蔵菩薩像。
3Dプリンターの技術や、慎重な色づけ作業のおかげで本物そっくりに仕上がったレプリカは、貴重な文化財を、どうやって後世に引き継いでいくのか、1つのヒントを示してくれているように感じました。」


お祀りされる主がいなくなってしまったお堂に、レプリカとはいうものの、地蔵菩薩が戻ってくることになった訳です。



【「信仰の対象としての仏様」と「貴重な文化財としての仏像」との折り合いの悩ましさ】


観光客、参拝客が多く訪れる有名寺院の場合は、こうした問題は起こらないのですが、地元の地区の人々に守られているお堂に祀られた仏像や、無住のお寺、住職はいらっしゃっても檀家や訪れる人も少ないお寺の仏像が、仏教美術として貴重な文化財であった場合、どのようにしてしっかり管理していくのかというのは、本当に難しく、悩ましい問題だと思います。

重要文化財に指定されている仏像の場合、お寺やお堂でお祀り管理していこうとすると、防災対策がされた収蔵庫が、原則必要ということになりますし、収蔵庫建設費用の地元やお寺の負担金も相当に必要ということになってしまいます。
また、収蔵庫が出来たとしても、防犯対応等の維持管理の手間も、なかなか大変です。

一方、仏さまは、その地の人々に永年守られ、厚い信仰のおかげで、現在在る訳で、
「貴重な文化財なので、博物館に移して管理します。」
と云われても、何とも割り切れない気持ちになってしまうことだろうと思います。


私も、地方のお寺や、地区の管理となっている仏像を拝しに、訪れることがよくありますが、

「大事にお祀り、お守りしているのですが、仏像もお堂の修理も、なかなかお金がかかってままならないのですよ。」
「貴重な文化財と云われても、管理していくのもなかなか大変で・・・・・」

といったお話を伺うことがよくあります。

ニュースになった新町地蔵保存会の地蔵さまも、博物館から戻そうとすると、お金をかけて収蔵庫を造らなくてはならないでしょうし、
コンクリートの収蔵庫ではなくて、今の小さなお堂にお祀りしてこそ、地元の人々にとって、お守りして拝する意味もあるということなのかと思います。

今般の、国立博物館の3Dプリンターによりレプリカを制作し、そのレプリカをお堂の方にお祀りするという話は、

「信仰の対象として祀られる仏様」と「仏教美術の貴重な文化財としての仏像」

という問題に、何とか折り合いをつける方法として、編み出されたものなのでしょう。

きっと、これがベストという訳ではないのでしょうが、大きなコストをかけずに、上手に対応していく一つのやり方として、これからも増えていくのかもしれません。



【京博で、本物とレプリカをセットで展示中】


この3D プリンターを用いたレプリカは、本物の重要文化財の地蔵像と二つ並んで、京都国立博物館に展示されているそうです。

京都国立博物館にセットで展示されている、新町地蔵保存会・地蔵菩薩像とそのレプリカ
京都国立博物館にセットで展示されている、新町地蔵保存会・地蔵菩薩像とそのレプリカ

レプリカの方は、8月17日に地元のお堂に戻って、19日の地蔵盆で開眼法要が営まれるということです。

どの程度精巧で、見紛うようなレプリカなのでしょうか?
機会があるようでしたら、京博に寄ってみられては如何でしょうか。



【近年の仏像模造、あれこれ】


近年、仏像の模造制作、いわゆるレプリカの精度は、本当に本物に限りなく近づいているようです。

ご存じのように、美術院国宝修理所では、制作当時の仏像の製作技術を研究するとともに、技術レベルの向上のためもあって、仏像の模造制作が行われています。
近年(2013年)では、唐招提寺・鑑真和上像の脱活乾漆技法による模造制作が行われました。

唐招提寺・鑑真和上像のお身代わり像(模造)~古色付けをする前唐招提寺・鑑真和上像のお身代わり像(模造)~古色付け後
唐招提寺・鑑真和上像のお身代わり像(模造)
~(左)古色付けをする前、(右)古色付け後~



また、東京藝術大学を中心とした「クローン文化財」と称する、文化財の模造制作も、マスコミを賑わして話題となっています。
仏像では、今年(2017年)「法隆寺・釈迦三尊像」の模造が、東京藝大と富山高岡市との連携で制作されました。
3Dデータ計測、および3Dプリント出力による原型づくりを行い、高岡の鋳造技術により金銅仏の模造を「クローン文化財」として制作したものです。
いわゆるレプリカ(複製)とは異なり、オリジナルを超越するという位置付けだそうです。

法隆寺・釈迦三尊像のクローン文化財(模造)~鋳造すぐの姿

法隆寺・釈迦三尊像のクローン文化財(模造)
法隆寺・釈迦三尊像のクローン文化財(模造)~(上)鋳造すぐの姿

この「クローン文化財」の法隆寺釈迦三尊像は、2017年7月2日まで、東京藝術大学の「Study of BABEL」展で、展示されています。
私も観てきましたが、なかなかの精巧なレベルで真迫性もあり、ビックリしました。



NHKニュースで採り上げられた、新町地蔵保存会のレプリカ制作と里帰りの話題、
近年の3D技術の精巧さに、今更ながら驚かされるとともに、
「信仰される仏様」と「文化財保護保存」という悩ましき問題の折り合いについて、考えさせられる話でした。

コメント

そんな大それた文化財とは意識もせず、親しんできた新町地蔵だったのでしょうね。3Dプリンターによる複製ならば、安価だし、それ相応に精巧でもあり、保存会の方たちも喜んだことでしょうね。
脱活乾漆技法は、どこかで聞いたなと思ったら、横浜市金沢区の寺院で見つかったということで記憶していたんでした。

  • 2017/06/30(金) 09:50:37 |
  • URL |
  • AzTak #ba33.0Zs
  • [ 編集 ]

Re: タイトルなし

AzTak様

ご覧いただき、有難うございます。

これほどの優れた平安古仏が、町中の小堂で地元の人の手で守られ、18年前まで、その存在を知られていなかったというのですから、京都というのは、流石に奥深い町ですね。
レプリカをお祀りするというのは、割り切れないものがあるのかもしれませんが、新町の方々にとっては、この方法が、現実的には一番良かったということなのでしょう。

横浜市金沢区の脱活乾漆像というのは、1995年に新発見の、龍華寺・菩薩踏下坐像のことだと思います。
随分破損していましたが、大変美しい天平仏の姿に修復されています。

管理人

  • 2017/07/01(土) 18:05:55 |
  • URL |
  • 神奈川仏教文化研究所 #-
  • [ 編集 ]

釈迦三尊レプリカ、龍華寺菩薩と金蔵寺如来像

新町地蔵保存会の地蔵菩薩については東博の新指定文化財特別陳列で見ただけで、何も情報はないので書くこともありませんが、芸大の法隆寺釈迦三尊と横浜龍華寺乾漆菩薩像については多少話題があるので投稿しました。

まず釈迦三尊ですが、バベルの塔の模型を見に行ったら釈迦三尊のレプリカがあったので驚きました。鋳造を依頼した富山県高岡市で公開されたということは聞いていましたが、上野で見られるとは思っていませんでした。担当者にいろいろ話を聞いたのでご紹介します。

原作と異なる箇所は、①両脇侍の左右を入れ替えた(脇侍の左右に広がる天衣の長さが異なるが、本来は外側にくる天衣が長くないとバランスが不自然であり、原作は脇侍の左右配置が誤り)、②釈迦の白毫を再現した(原作では欠損)、③釈迦の螺髪を増やした(原作では一部欠損)、④光背の縁に開けられている火炎差し込み用の孔を省略した、⑤光背の最上部のひび割れを再現しなかった。
レーザー計測は原作で陰になっている部分(例えば脇侍光背の陰になる大型光背の部分)のデータを取得していないので、その部分は手作業でデータを補った。また、各工程別の費用としては3Dプリンターでの原型製作が最も高額であり、また、鋳造よりも台座製作の方が高額とのこと(桧の材料費)。
秋頃には光背周縁の火炎も再現し、芸大美術館で展示することも検討中とのこと。火炎の形は東博法隆寺宝物館の甲寅年銘光背の火炎を参考にして作ることになりそう。差し込み用の孔を再現するか溶接してしまうかは未定とのことですが、甲寅年銘光背の火炎を参考にするとしても、これはあくまで推定の復元ですから、溶接してしまうのは問題があると思います。やるとしても差し込み式にするのではないでしょうか。
この釈迦三尊レプリカについては法隆寺側も今後の活用方法を期待しているようなので、これからも注意していきたいと思います。また、私も何度か見に行ったのですが、現物の写真持参で比べてみたところ、釈迦の顔に残る鍍金については現物とかなり違っていました。こういう部分の再現はかなり難しいようです。

次に龍華寺乾漆菩薩像ですが、5月末に奈良博快慶展、大阪市美の木と仏像展と合わせ、姫路城裏の兵庫県立歴史博物館で開催されていた「兵庫の美仏展」に行って金蔵寺の如来像という仏像を見てきました。この像は頭部のみ天平時代の脱活乾漆ですが、元々龍華寺の菩薩像と一具の像だったという説があるそうです。龍華寺像は以前に金沢文庫で見ていて、また、東京文化財研究所で発行した大判の報告書も見たことはあったのですが、金蔵寺の如来に関する記載は見落としていました。今回姫路から帰ってきてからその報告書や兵庫歴博の神戸佳文学芸員が以前仏教芸術に書いた金蔵寺如来の紹介文などを確認しました。作風、頭部の各部分の比率などから一具の三尊像だった可能性はかなり高いとのことですが、両者の伝来履歴での確認が取れていないそうです。兵庫の美仏展は10世紀頃の瑠璃寺不動明王を見るために行ったのですが、運慶風の強い檀像の小さな毘沙門天とか金蔵寺の如来像とか、なかなか面白い展覧会でした。

Re: 釈迦三尊レプリカ、龍華寺菩薩と金蔵寺如来像

むろさん様

東京芸大・釈迦三尊像のレプリカについての詳しい情報、有難うございます
差し込み孔の遺る光背の周縁部が再現されるというのは、なかなか興味深いですね

金蔵寺の如来像頭部が新発見の龍華寺像と一具だというのは、龍華寺像が発見された1998年に、津田徹英氏が指摘をして、多くの研究者がこの見方に賛同しているというようですね
10年以上前に金蔵寺に行って、天平の乾漆という如来像(頭部)を拝したことがあるのですが、これと龍華寺像が一具だと即座に判定するというのは、「専門家というのは大したものだ」と思いながら拝した思い出があります

管理人

  • 2017/07/16(日) 18:48:36 |
  • URL |
  • 神奈川仏教文化研究所 #-
  • [ 編集 ]

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