観仏日々帖

新刊旧刊案内~「唐招提寺~美術史研究のあゆみ」 と 研究史本いろいろ 【2017.2.4】


「美術史研究のあゆみ」シリーズの最新刊が出版されました。


「唐招提寺~美術史研究のあゆみ」大橋一章、片岡直樹編著 
2016年12月 里文出版刊 【303P】 2500円


唐招提寺~美術史研究のあゆみ


そろそろ、このシリーズの新刊が出るのではないかと期待していましたので、早速、購入しました。

この本は、唐招提寺についての美術史研究上のテーマについての、研究史をまとめた本です。

本の帯には

「鑑真大和上像ほか唐招提寺美術の最新の研究成果をまとめた一冊!
鑑真の御寺奈良・唐招提寺には天平以来の数多くの仏教美術品が伝えられている。
その研究史をたどる一歩進んだ美術書。」

と記されています。

本の題名でご想像がつく通り、テーマ別の研究史について、これまでの諸説から最新の研究成果までが、コンパクトにまとめられた本です。

「唐招提寺の創立」「金堂創建と金堂三尊」「鑑真和上像」「新宝蔵・旧講堂の木彫群」

等々が、テーマとして採り上げられています。

目次をご覧ください。

唐招提寺~美術史研究のあゆみ・目次2唐招提寺~美術史研究のあゆみ・目次1

唐招提寺~美術史研究のあゆみ・目次4唐招提寺~美術史研究のあゆみ・目次3

唐招提寺~美術史研究のあゆみ・目次5

テーマ別に、研究史についての概説が、20~30ページにコンパクトにまとめられ、過去の研究、論争、最新の研究成果、課題などが、大変わかりやすく、読みやすく述べられています。
一般の解説書から、一歩踏み込んだ研究史の概説、解説書と云えるものだと思います。



【一般解説書で飽き足らない方の、知的興味をくすぐる研究史本】


こうした研究史をたどった本は、仏教美術を愛好する者にとっては、大変有難く、また便利な本です。

奈良や京都の古社寺や仏像を巡り、だんだんと仏教美術に興味がわいてくると、一般的な、仏像のガイドブックや解説本で飽き足らなってくるのではないでしょうか?

私も、仏教美術に少し興味がわいてきた昔を振り返ってみると、古社寺、仏像巡りをしているうちに、いくつかの美術史の大きな論争、議論があるということがおぼろげながら知るようになりました。

「法隆寺再建非再建論争」「薬師寺金堂三尊、移坐非移坐論争」「平安初期木彫誕生の謎」

といった話です。

「面白そう、興味深い話だな」
「もう少し、深く知りたいな」

と思ったのですが、どんな本を読んだら、こうした論争や議論の全体感が判るのかというのが、よく判りませんでした。
ちょっと突っ込んで知りたいと思っても、なかなか手ごろでコンパクトにまとめた研究史の解説書というのは、全くありませんでした。

知ろうとすると、ものすごく難解で高価な研究書とか、美術研究誌に掲載されている研究論文にチャレンジするしかなかったのではないかと思います。
ただの、愛好、趣味の者にとっては、ちょっと読んでみても、難し過ぎてギブアップという世界でした。

こんな知的興味をくすぐるような、論争史や研究史をまとめた本があったら、本当に嬉しいなというのが、若き頃の願望であったように思います。



【早稲田大学、大橋一章氏を中心に、長らく刊行されている「美術史研究のあゆみ」シリーズ】


この「美術史研究のあゆみ」シリーズの本は、こうしたニーズにぴったりという本なのではないかと思います。

30年ほど前から、刊行が始まりました。
いずれも「コンパクトにまとめられた研究史解説書」となっています。

一般の解説書では、ちょっと飽き足らなくなってきた
仏教美術史の議論あるテーマについて、一歩深く知りたい
興味関心はあるが、専門書、研究書を読もうとまでは思わない

といった方には、大変面白く、興味深い本なのではないかと思います。

このシリーズ、早稲田大学の大橋一章氏を中心に、刊行が続けられているものです。
これまでに全部で、8冊刊行されています。
この機会に、どんな本が出ているのかだけを、ご紹介しておきたいと思います。
個別の内容に立ち入ると、大変ですので、本の名前と書影の羅列になってしまいますが、ご参考になればと思います。

出版年順にご紹介します。



【最初の2冊は、主要な論争テーマを取り上げた研究史本】



「寧楽美術の争点」大橋一章編著 1984年10月 グラフ社刊 【317P】 1800円

寧楽美術の争点

もうずいぶん前の話になりますが、この新刊本を、本屋で見つけた時、
「こんな本が出るのを、待っていたのだ!」
思わず、そう叫びそうになりました。

採り上げられたテーマの目次は、このようなものでした。

寧楽美術の争点・目次

面白そうで、興味をそそるテーマばかりです。
早速買って、読み耽った思い出があります。

法隆寺論争についての本を除いては、仏教美術の論争史、研究史だけをまとめた本は、それまで全くなかったのです。

町田甲一氏は、本書の裏表紙の推薦文にこのように書いています。

「法隆寺論争がなかったら、若草寺塔心礎の寺への返還はなかったろうし、伽藍址の発掘も行われたとしても可成りおくれたことだろうが、それにもまして思うべきことは、その後の『法隆寺学』、さらに上代美術史の今日のような成果は始と期待できなかったであろう。

また薬帥寺論争によって、飛烏より白鳳・天平にいたる上代彫刻の「様式」の内容がようやく正しく埋稗されるようになった。

論争は、それが真面目に行われるとき、必ず新しい成果を生むものであり、新知見を齎し、学問の進化を促すものである。
そしてそのような論争の経緯を手際よく鳥瞰できることは、それらの問題に関心をよせる人たちに適切な指針を提供するはかりでなく、その道に進もうとする新しい研究者には、諸問題についての現時点における歴史的全貌を要約して数えてくれる極めて効率の高い入門書となりスタート台ともなるものである。

そのような古美術に興味をもつ人、新しい若い研究者にこのすぐれた『寧楽美術の争点』を、おすすめしたい。」


この本が出版されてから、10年後、ずいぶん経ってから、「寧楽美術の争点」の続編のような本が出ました。

「論争・奈良美術」大橋一章編著 1994年4月 平凡社刊 【284P】 2860円


論争奈良美術

目次をご覧ください。

論争奈良美術・目次

このようなテーマが採り上げられています。



【その後は、奈良六大寺の研究史本を、着々と刊行中】


以上の2冊は、これまで論争、議論があった主要テーマをまとめたものでしたが、
この後からは、奈良の主要大寺ごとに、研究史をまとめた本が出版されるようになりました。
4~5年おきに、出版されているようです。

ご覧ください。


「法隆寺美術・論争の視点」大橋一章編著 
1998年8月 グラフ社刊 【381P】 2800円


法隆寺美術論争の視点



「薬師寺・1300年の精華~美術史研究のあゆみ」大橋一章、松原智美編著
2000年12月 里文出版刊 【309P】 2500円


薬師寺~美術史研究のあゆみ

薬師寺~美術史研究のあゆみ・目次



「東大寺~美術史研究のあゆみ」大橋一章、斎藤理恵子編著
2003年9月 里文出版刊 【369P】 2500円


東大寺~美術史研究のあゆみ

東大寺~美術史研究のあゆみ・目次



「法隆寺、薬師寺、東大寺、論争のあゆみ」大橋一章著
2006年4月 グラフ社刊 【218P】 1600円


法隆寺・薬師寺・東大寺、論争のあゆみ



「興福寺~美術史研究のあゆみ」大橋一章、片岡直樹編著
2011年11月 里文出版刊 【381P】 2500円


興福寺~美術史研究のあゆみ

興福寺~美術史研究のあゆみ・目次


以上のとおりです。

今般出版された新刊「唐招提寺~美術史研究のあゆみ」を含めると、奈良六大寺のうち5寺の研究史本が発刊されたことになります。

数年後には、「西大寺」の研究史本が計画されているという話で、それが出版されると、奈良六大寺の研究史本が完結することになるそうです。

一般の解説書から、一歩踏み込んだ仏教美術史にご関心のある方には、お薦めのシリーズだと思います。



【ついでに、昔懐かしい、法隆寺論争の研究史本をご紹介】


「美術史研究のあゆみ」シリーズを採り上げたついでに、もっともっと昔の研究史本を、ちょっとだけご紹介しておきます。

法隆寺の再建非再建論争を中心とした、「研究史本」です。

早稲田の大橋一章氏を中心とした仏教美術史研究史本が出版されるまでは、研究史だけを採り上げた本というのは全く無くて、唯一、「法隆寺論争の研究史本」が存在するだけでした。

今更言うまでもありませんが、法隆寺の再建非再建論争は、明治から昭和を通じて展開された建築史、美術史上の大論争でした。
この世を挙げてといってよいほどの大論争があったからこそ、日本の近代建築私学、美術史学の、これほどの発展はなかっただろうともいわれています。

こんな法隆寺の研究史本が、その昔出ているのです。


「法隆寺再建非再建論争史」足立康編 1941年10月 龍吟社刊 【368P】 3.8円

法隆寺再建非再建論争史


戦前に出版された、法隆寺再建非再建論争をまとめた本です。
法隆寺非再建論の雄であった、足立康氏の編集による本です。
明治時代以来の法隆寺再建非再建論争について、足立康氏が歴史を追って解説、自説を展開しつつ、論者の代表的論考が集成されています。
非再建論者で著名な、平子鐸嶺、関野貞、足立康といった各氏の論考が中心です。

ただ、再建論の代表的大物であった喜田貞吉氏の論考が採録されていません。
前年に、喜田貞吉氏が自説の論考をまとめた本「法隆寺論攷」が出版され、喜田氏の論文が転載不可になったという事情によるものです。

「法隆寺論攷」喜田貞吉編著 1940年9月 地人書院刊 【494P】 5.5円

法隆寺論攷


この喜田貞吉氏の本とセットで読むと、昭和、戦前の法隆寺再建非再建論争の研究史をしのぶことが出来ます。


戦後すぐには、こんな本が出版されました。

「法隆寺の研究史」村田治郎著 194910月 毎日新聞社刊 【332P】 330円

法隆寺の研究史


村田治郎氏は、東洋建築史、中国建築史研究の第一人者で、法隆寺の研究でも知られ、法隆寺に関する数多くの論文を発表している人です。

著者は,序文で、

「この本は法隆寺、とくに金堂、塔婆、中門を中心とする諸問題についての、諸学者の研究の経過と現在到達している点を明らかにして、多くの人々の理解に役立たしめ、且つ新たに研究を始めようとする人達の手引きになることを、目標としている。
私がこんな本の編纂を思い立ったのは、敗戦によって今までの日本は週末を継げたのだから、それを機会に過去のあらゆる学問は総決算して、今後の出発に備える必要があると考えられたからである。」

と述べています。

序文のとおり、法隆寺の論争史、研究史について、いずれの論に偏することなく、大変丁寧にしっかりとまとめられた高品質の本となっています。
当時、法隆寺の研究史を学ぶ、「底本」ともいうべき本になっていたのではないかと思います。

この本、何部刊行されたのかわかりませんが、昭和40~50年代には、なかなかの貴重書でした。
神田神保町の古書店では、2万円程度の値札が付けられて書棚に並んでいました。
到底買えそうにはなく、恨めしそうな目でこの本を眺めていたのを覚えています。
今、NETで検索したら、2000円ぐらいで購入できるようです。
時代が変わったんだなという気が、しみじみとしてきます。


同じ村田治郎氏による「法隆寺の研究史」の本を、もう1冊、ご紹介します。

「法隆寺の研究史」村田治郎著作集第2巻 1987年7月 中央公論美術出版刊 【431P】 9800円

法隆寺の研究史・中公美術出版版

村田氏が1985年に没後、全三巻の著作集が刊行されましたが、その第2巻となっているものです。

昭和24年に刊行された「法隆寺の研究史」と同じ題名になっていますが、大幅に増訂、改訂され、ハイレベルの内容になっています。
村田氏没後に、蔵書、原稿類を整理した処、この新たな増訂原稿が見つかったということです。
この新版の「法隆寺の研究史」は、この新稿によるものであり、旧著とは面目を一新した研究史の論文集となっています。

村田氏は、新稿の序に、旧著について
「初歩の学生諸君に、法隆寺学を容易に理解して頂く内容にしようと思って書いた」
としています。
新版の方は、学問的レベルの法隆寺研究史の論考の集大成といったものになっていると思います。



私の知っている限りでの、仏教美術史の「研究史本」を、ざっとご紹介してみました。
研究史本の世界というのも、知的興味をくすぐって、なかなか面白いものです。

ご関心のある方の、ご参考になれば、有難き限りです。


コメント

早速図書館で確認しました

こういう研究の歴史に関するシリーズが出ていることは全く知りませんでした。早速地元の図書館で確認したら唐招提寺だけあったので借りてきました。私の一番関心のあるテーマ(鎌倉初期の運慶・快慶など)が掲載されている興福寺、東大寺の本はなかったので、昨日芸大の図書館へ行ったらありました。中身をざっと見たところ、これは入手してしっかり読んだ方がいいと感じたので、そのうち買おうかと思います。ただ発行が少し前なので、例えば興福寺南円堂の現四天王が北円堂の無著・世親像と同じ桂材だから本来北円堂の運慶一派作の像ではないかという、最近の藤岡・山本説までは記載されていません。最新の情報を把握した上で、これまでの研究史をまとめて理解するという使い方をすれば有用かと思いました。

  • 2017/02/16(木) 00:56:20 |
  • URL |
  • むろさん #PMoz9hdc
  • [ 編集 ]

Re: 早速図書館で確認しました

むろさん様

コメント、有難うございます
「研究史シリーズ本」の話、お役に立って何よりです
これらの研究史本、論点などを理解するのに、本当に便利で分かりやすいものだと思います
是非、ご活用ください

管理人

  • 2017/02/17(金) 18:50:05 |
  • URL |
  • 神奈川仏教文化研究所 #-
  • [ 編集 ]

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