観仏日々帖

新刊・旧刊案内~「仏像の 知られざる なかみ」

ちょっとおもしろい本が出版されました。

「仏像の 知られざる なかみ」  青木淳 監修

宝島社刊   別冊宝島1988号   1260円

という本です。

20130331仏像のなかみ1

3月25日に出たばかりのホヤホヤの本です。
超速攻でご紹介します。


表紙の写真をご覧になったら、内容は、直ぐにご想像がつくと思います。
仏像の体内に残された、「納入品、胎内仏、墨書銘づくし」という変わった本です。

なんと「別冊・宝島」のシリーズの一冊として発刊されました。
「別冊・宝島」と云うと、「刑務所のタブー」「実録 プロレス裁判」「現代日本の謀略事件」などといった題名の本を出しているムック風雑誌シリーズです。

「仏像の知られざるなかみ」という新刊の表題を新聞で見て、そんなシリーズの一冊ということなので、どんな本なのだろうかと、書店の雑誌売り場を探してみました。
「別冊・宝島」だよね?
と、内心、恐る恐る手に取って、ページをパラパラとめくってみたというのが、正直な本音の処です。

内容をさらっと見ると「これは面白い本だ」と思い、さっそく買い求めました。
監修は、多摩美術大学准教授の青木淳氏です。

目次は、ご覧のとおりです。

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「X線撮影や解体修理でわかった、仏像の体内にこめられた納入品の謎!
仏像の知られざるなかみ」

という、キャッチコピーが添えられています。

目次をご覧いただくとお判りのように、
はじめに「さまざまな像内納入品」として、舎利器、月輪、経典陀羅尼、五臓六腑、仏画印仏、結縁交名が代表作例と共に紹介整理され、
その後に5章が設けられ、
像内納入品の歴史、納入品にこめられた祈り、封印された死者との対話、X線透視による運慶仏、鎮魂・勧進・結縁の快慶仏
という章立てで、
納入品や墨書銘の数々が、テーマ別に大変うまくまとめられています。

1つのテーマの解説は、2ページ見開きで一話に完結するようにコンパクトに仕立てられています。

私が、一番愉しく読ませてもらったのは、
「像内納入品に封印された~死者との対話」の章です。


■岡崎市の運慶作と云われる瀧山寺聖観音像では、

昭和53年、X線撮影を行った処、顔部の内部に小箱つるされ、そのなかに「歯」と思しき影が見えることが判明。
瀧山寺には「供養のために源頼朝の歯と遺髪を聖観音の胎内に収めた」という伝承があり、本当に頼朝の歯が納められているのではないか?

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■伊豆の修善寺の実慶作、大日如来像では、

胎内に遺髪が納められているのが、昭和59年の解体修理で発見され、この地で暗殺された源頼家の遺髪かと思われたが、DNA鑑定により女性の血液型(O型とB型)であることが判明し、頼家の妻妾のひとり「辻殿」と頼家の母「北条政子」の遺髪かとの推測を呼んでいる?

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■大津園城寺の室町前期の地蔵菩薩像では、

平成24年、X線撮影調査の結果、頭部に紙に包まれた納入品が映し出された。
園城寺に伝わる文書に、「頼朝や尊氏の先例に倣い、義詮(2代将軍)の遺髪を納めた地蔵菩薩を奉納した」と記されたものがあり、本像に納入されているのは、尊氏か義詮の遺髪と推測される?


といった話などが、やさしく判りやすく語られています。


その他に採り上げられた像と納入品の話のいずれも、大変コンパクトにポイントがまとめられており、ノンフィクション・ドキュメンタリーのように愉しく、面白く読み進むことができます。

「仏像のX線透視撮影とか、納入品」
といった分野の話は、これをテーマにしたものが出版されてはいますが、「研究書」ばかりです。
なかなか専門的に過ぎて難しく歯ごたえがありすぎますし、また大変高価でもあります。

本書のように、「仏像の胎内の世界」をやさしくまとめ、読み物にした本は、そう滅多にありません。

きっとこの分野は、普通に仏像鑑賞を愉しむ方々には、ちょっと馴染みにくくて、少々マニアックな世界とみなされていたからかも知れません。
だから、いわゆる一般書で、この手の本がなかったのだと思います。


近年、運慶作の仏像の新発見として、光得寺大日如来坐像や、真如苑蔵大日如来坐像が注目を浴び、マスコミなどに大きく採り上げられました。

両像が運慶作であると考えられる有力な事由が、X線撮影の透視画像により運慶作例にみられる五輪塔形舎利容器、心月輪、五輪塔形木柱が納入されていることが判明したことであることは、良くご存じのことと思います。
このX線透過画像の写真は、博物館でもよく展示されていましたし、新聞紙上にも何度も大きく掲載されました。

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そんなこともあり、仏像のX線透過撮影や像内納入品の話が、研究者の世界だけでなく、一般の人々にも随分馴染のあるものになっていったのでしょうか?

これまでに無かったこんな本が、近年の仏像ブームにあいまって、一般向けのムック雑誌で発刊されるようになったのでしょうか?

私には、この分野のハンディでわかりやすい本が出て、有難い限りですが、書店でこの本を買う方は、どのくらいいらっしゃるでしょうか?
仏像好きな方が、一歩踏み込んだ仏像調査研究の世界を、判りやすく愉しむには格好の本だと思うのですが・・・・・・

売れ行きの方が、少しばかり心配です。



最後に、専門的研究書ではなく、一般書として「仏像のX線撮影や像内納入品」についてまとめられた本や図録の旧刊を、ご紹介しておきます。


「仏像」 久野健著 1961年 学生社刊 480円

久野健氏は、仏像のX線撮影調査を我が国で初めて手掛けた人です。
本書では「X線で仏像をさぐる」という章立てなどで、その時の苦労や、調査成果などがやさしく語られています。

「像内納入品」 倉田文作著 1973年 至文堂刊

至文堂~「日本の美術」シリーズの第86号として発刊されました。

「仏像と像内納入品」 1974年 奈良国立博物館刊

同名の特別展の図録です。

「仏像~胎内の世界~」 1999年 琵琶湖文化館刊

同名の特別展の図録です。





古仏探訪~姫路市夢前町・蓮華寺 十一面観音坐像


鶴林寺、楊柳寺の播磨古仏探訪のついでに、姫路市夢前町(ゆめさきちょう)にある、蓮華寺十一面観音坐像の観仏に訪れてみました。

私は、この仏像については全く知らなかったのですが、
この「観仏日々帖」に亀岡市・甘露寺の十一面観音坐像を採り上げた時、
ブログを見ていただいた同好の方から、甘露寺像の兄弟のような十一面観音坐像が播磨にある、というご教示いただきました。

教えていただいた仏像が、この蓮華寺十一面観音坐像です。

1991年に兵庫県歴史博物館の「ふるさとのみほとけー播磨の仏像展」に出展されたことがあるとのことでした。
図録に掲載された写真は、次のようなものです。

蓮華寺十一面観音坐像・図録掲載写真...蓮華寺十一面観音坐像上半身・図録掲載写真
蓮華寺十一面観音坐像・図録掲載写真

この写真を見た時には、パワーはありそうだけれども、後世の補彩が拙劣で、わざわざこれをめざして出かけるほどの仏像のようには、正直な処、感じられませんでした。


夢前町・蓮華寺鶴林寺・秘仏御開帳に播磨に出かけましたので、ちょうど良い機会と、ついでに夢前町の蓮華寺を訪ねてみました。


蓮華寺は、姫路駅から真北に10キロぐらいの鄙びた山村に在ります。
蓮華寺は、本尊は地蔵菩薩で、また夢前七福神の一つとして恵比寿様をお祀りしているようです。


お訪ねすると、かなりの高齢のご住職がいらっしゃり、お堂にご案内頂きました。
めざす十一面観音坐像は、内陣の右側の厨子に脇仏としてお祀りされていました。

蓮華寺・本堂....蓮華寺十一面観音・お厨子
.      蓮華寺・本堂                    十一面観音像お厨子

早速、ご拝観。

想定外に、パワフルで迫力のある像です。
ボリューム感たっぷりで、なかなか堂々たる姿は、図録写真で見たイメージと全く違いました。
図録写真と、実際の写真を比べてみて、如何でしょうか?

蓮華寺十一面観音坐像


蓮華寺十一面観音坐像....蓮華寺十一面観音坐像・顔部
蓮華寺十一面観音坐像

地方的な雰囲気のする仏像です。
しかし、その迫力ある造型は、時代は下るかもしれませんが平安前期の余韻をしっかりとどめています。
粗野で、野太い造形で、何やら土臭いエネルギー・パワーを発散しているように感じます。
造形の巧みさよりも、発散するエネルギー勝負といった感じの仏像です。

「ふるさとのみほとけー播磨の仏像展」図録の解説には、このように記されています。


「像高:122.5㎝、一木造 彩色
体部は内刳りのない一木造りで両脚部は別に一材を寄せ、さらに左腰部には三角材をあてている。・・・・・
相好は森厳で、面部は張りがあり、体部は厚く、膝は幅が大きく厚みがあるなど全体に量感豊かに表され、また胸飾を刻出するなど古様を示している。
しかし、衣文の彫りがやや穏やかになることなどから平安中期(10世紀)の造立と考えられる。」

「彩色は衣部にベンガラ、肉身部に黒漆がほどこされているがやはり後補である。
また、眼と唇(紅)の彩色も同様であるが、この像の重厚は雰囲気を大きく損なわせているのが惜しまれる。」

眼前のお像は、古色で仕上げられ、後世の彩色の跡は、すっかり無くなっています。
図録写真で見た仏像とは、全く別の仏像のような雰囲気です。


修理完成の木札ご住職のお話では、この観音像は平成13年(2001)に、修復されて現在のお姿になったとのことです。

お像の前には、修復時に書かれた木札が立てられていました。

修復は、桜庭裕介氏の手によるようです。

桜庭氏は、仏像修復などを手掛けられていると共に、早稲田大学文学学術院講師でもあり研究者としても知られている方です。



この時の修理報告写真が遺されており、ご住職に見せていただきました。
修理前と修理後写真が並べられていると共に、いろいろな角度からの撮影写真もありました。
この像が古様で、地方仏特有の肥満したボリューム感たっぷりの像であることがよく判ります。

修理前・全身像....修理後・全身
修理前                         修理後


修理前・側面.......修理後・側面


修理前・斜面.......修理後・斜面

もう一度、よく観音像を拝してみました。

彫りは粗野で荒くて、お世辞にも洗練された彫像という雰囲気はないのですが、一方で、野性味、野趣を強く感じさせるパワーを発散しています。
兄弟分のようと教えていただいた、亀岡・甘露寺の十一面観音坐像の方は、この像と比べると、かなり都風の優れた彫技を感じる像のような気がします。

蓮華寺像が野性的エネルギーを感じるとすれば、甘露寺像はパワフルだが上品という感じがします。

亀岡・甘露寺十一面観音坐像
亀岡・甘露寺十一面観音坐像

しかし私は、野太い、土臭いエネルギーを発散させている、この蓮華寺・観音坐像に結構魅力を感じます。
土の匂いがする地方仏がもつ霊威というか、惹きつけるオーラのようなものを強く感じるのです。

兵庫県歴史博物館の神戸佳文氏は、図録所載の「播磨の仏像について」という解説文の中で、


「蓮華寺十一面観音坐像は、但馬の但東町・西谷観音堂の十一面観音立像(152.1㎝)に似た作風を示している」

と書かれています。

この西谷観音堂の十一面観音像。

西谷観音堂・十一面観音立像....西谷観音堂・十一面観音立像(上半身)
西谷観音堂・十一面観音立像

これまた、
「野性味、野太さ、粗野、ゴツイ」
こんなキーワードで表現できそうな、パワフルな平安古像です。

私も、この観音像を拝した時、なんとも異様な土臭いエネルギーでたたきつけられそうな不思議な感覚になった記憶があります。

たしかに、西谷観音堂像と蓮華寺像は、造形感覚の根っこで「同根」の仏像だという風に思います。
西谷観音堂像の方が、古様で迫力も一枚上のようにおもいますが、顔の雰囲気や、鈍く太造りな衣文線、胸飾を刻出している処などは、同類のように思えます。

西谷観音堂の十一面観音像は、井上正氏が、古密教彫像巡歴(日本美術工芸611号)で採り上げている仏像です。

井上氏は、
「筆者の心を強く揺さぶる古作であった」
と記しています。

毎度ご紹介する井上説ですが、本像を行基の活躍年代にあたる8世紀前半の制作と想定されています。


正直に言って、あまり大きな期待もせずに訪れた、蓮華寺十一面観音坐像でしたが、実際のお姿を拝して、独特の野趣あふれる迫力、オーラのようなものに接することができ、この像の魅力を発見することが出来ました。
そして、異様で土臭い霊威を感じさせてくれた西谷観音堂十一面観音像をも、思い起こさせてくれることになりました。

蓮華寺まで、わざわざ足を伸ばしてみて、本当に良かったと思った次第です。

ご住職から、観音様の修復についてのお話も聞かせていただきました。
ご高齢のご住職は、多額の費用は掛かったものの、ご自身の代の時に十一面観音様の修復をすることができたことに、大変満足されているご様子でした。
「修理報告書」を大事に保管して、
「観音様の傍に置いて、次の代に引き継いでかなければと念じている」
と、おっしゃっておられました。

「今日は、良き古仏探訪だったな」

そんな満足感で、蓮華寺を後にしました。